愛情、情熱、添え物の園へ

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 愕然とした。    台風以外は完璧だったのに。  もうパセリに固執する意味も、よくわからなくなってきた。  不便な田舎暮らしを止め、また都会に戻りたいとすら思った。  でももう一度。もう一度だけ、種を蒔いてみようと思う。  それで妻が喜んでくれるかは、もうわからないけど、僕の意地を貫いてみたくて、また半年後に種を蒔いてみようと思った。  種を蒔いてから2ヶ月後、青々としたパセリが、ついに僕達の畑に茂った。  イメージしていた完璧なパセリ。深い緑にむせるような香気。畑に生えたパセリ達は、ちぢれた葉先が重なるように集まって、まるで深い森を上空から眺めているようだ。  ついに僕はパセリを育て上げた。  育て始めてから3年程経ったのだろうか。何故パセリを育て始めたかなんて、もう些細な事に思えてきたが、このパセリならきっと妻も考えを変えたに違いない。  達成感と安堵で恍惚となり、涙が溢れた。  泣いたついでに、青々と茂るパセリ畑の真ん中で、朝焼けに染まる水色の空に向かって僕は思う。  どうか安心してほしい。  君がいなくても、僕は何とか独りでやっていける。  パセリだって作れたのだから。  もう少しすると、パセリに小さな花が咲く。  その花を摘んで、妻の墓前に添えようと思う。 〈了〉
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