愛情、情熱、添え物の園へ

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 でも、きっと美味しいパセリもあるはずだ、僕らが知らないだけで。  僕はそう反論する。 「無いよ。どこまで行ってもパセリはパセリ。同じ味」  何故そう簡単にパセリを諦めるのか。全てのパセリを試してみたのか。  僕は食い下がった。 「所詮はパセリ。どれだけ品質の良いパセリでも、パセリの味の範疇を超えることは無いと思うよ」  例えば採れたての新鮮なパセリならばどうか。採れたてで旨くない野菜なんて聞いたことがない。  僕は徹底抗戦の構えを取る。 「採れたてだろうとパセリはパセリでしょ。変わらないと思うよ」  僕は激昂した。  新鮮なパセリを試してもみないで、その言い様は何だ。僕も新鮮なパセリなんて食べたことは無いけれど、旨いに決まっているだろうが。採れたての野菜は例外無く旨いものなんだ。  であれば、新鮮で極上のパセリを手に入れてみせる。そしてその旨さに驚きパセリへの不敬を詫びろ。  そう告げる。 「新鮮なパセリってどこで手に入るの?」  農家に頼めばあるだろう。  近所に農家はいないけど、ちょっと足を延ばせば手に入る。 「正直、パセリのために遠出するのは面倒臭い」  ならば作る。  外出すら億劫と言うのであれば、目の前で極上のパセリを育て、目の前で収穫し、目の前でトンカツに添えてやる。 「……正気?」  なんとしても、この無知な女にパセリのありがたみを解らせるべく、僕はパセリを育てることを決意した。  何だかパセリ以外はどうでもよくなってきたので、結局その日の夕食はスーパーマーケットの惣菜コーナーでトンカツを仕入れてきた。  パセリは買ってこなかった。あえて。
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