50人が本棚に入れています
本棚に追加
「枯れちゃったね」
妻が少し寂しそうに言う。
何が悪かったんだろう。
やはり日当たりだろうか。ベランダの中はあまり日当たりが良くないので、上手く光合成が出来なかったのかもしれない。となると、もっと日が当たる場所で育てる必要がある。
僕はマンションの管理人さんにお願いし、マンション前の駐車場の一角にプランターを置かせてもらうことにした。水を与えに行くのは多少面倒だけど、そこなら日が良く当たるはずだ。
種蒔きも、この時期であればまだ間に合う。
「そこまでしなくても……」
妻は呆れたように言う。でも僕はパセリを育てなければならない。最高のパセリを育て、彼女のその歪んだ固定観念を是正すると共に、世の不条理に立ち向かう勇気を示さねばならない。
僕は毎日水を撒きに駐車場へ向かった。
毎日水を撒きに行く僕を見かねたのか、途中から妻も手伝うと言い出したが、僕は制止した。彼女に負担を掛けてまで育てるのでは、本末転倒になってしまう。あくまで僕が独りの手で、パセリを育てなければならない。そうしないと、僕は独りでは何も出来ないと思われたままになってしまう。それだけは避けたい。
そして僕とパセリに対する非礼に詫びを入れさせてやる。
だか1ヶ月程経つと、パセリの芽は何者かに荒らされ散り散りに飛散していた。
最初のコメントを投稿しよう!