愛情、情熱、添え物の園へ

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「ダメだったね……」  妻は弱々しく苦笑いした。  何が悪かったんだろう。  犬か猫が荒らしたのかもしれないし、子供がイタズラしたのかもしれない。  そうであれば、駐車場のような不特定多数の者が出入りする場所では育てられないし、やはり常に目の届く場所で育てる方が安心できる。  次の種蒔きシーズンまでは約半年。それまでに、なんとか安心して育てられる場所を確保しなければならない。  僕は妻の実家にお世話になろうと提案した。  妻の実家は結構大きな一戸建てだし、庭もある。ここから車で15分程の住宅地に位置するので、今のマンションを引き払わずに取り敢えずの間だけでもお世話になれないか、と相談してみた。 「そこまでしなくても……」  始めは苦笑いをしていた妻も、彼女の両親が承諾すると、家事をしなくて済む、と最終的には喜んでいた。それで彼女の負担が減るのなら、僕も嬉しくなってくる。  妻の実家にお世話になってから数ヶ月が経ち、再び種蒔きの時期となる。  僕は庭に50㎝四方のスペースを借りて、そこに腐葉土を混ぜパセリの種を植えた。  水撒きくらいは手伝うと妻は言ったが、僕はやらせなかった。彼女に負担を与える事は、僕の本意ではない。必ず僕は極上のパセリを独りで作り上げ、妻に頼らずとも何でもできるという事を知らしめてやる。  そして僕は極上のパセリに囲まれ、パセリキングになるのだ。  2ヶ月程すると、何とか食べられそうな背丈までは育った。しかし何だか弱々しくて色も薄い。とても極上のパセリとは呼べない代物だった。
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