愛情、情熱、添え物の園へ

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「失敗だったのかな……」  妻は残念そうに、静かに笑った。  何が悪かったんだろう。  気候だろうか。  パセリに適した環境は、やはり高原らしい。街中の環境では限界があるのかもしれない。  高原へ引っ越そう。  僕は妻にそう提案した。  彼女は呆れたように笑っていたが、僕の仕事はインターネット環境さえあればどこでも続けられるし、妻自身も将来は田舎でゆっくりと暮らすのが夢だと常々言っていた。  僕は妻を説得し、高原へ引っ越すことにした。その方が、お互いのためにも良いと思ったのだ。  住んでいたマンションは売却し、土地付きの古家を居抜きで購入した。少し借金もしたが、そんな事はもう大した話ではない。  そこまで大きな土地ではなかったけれど、25mプール程の大きさの畑が家の前に残っている。暫く放置されていたらしく雑草も茂り、土もひび割れていたけど、充分過ぎる広さだ。僕は雑草を抜き、耕し、パセリの種を蒔いた。  田舎暮らしは思ったより大変で、虫も出るし蛇も出る。買い物だって遠くまで足を運ばねばならない。でも妻は楽しそうに過ごしていたし、僕も楽しかった。やっぱり引っ越してきて正解だったと思う。  妻に負担を掛けるわけにはいかないので、僕は料理も覚え、ある程度の家事は一通り自分でこなせるようになった。  前より楽ができて嬉しい、と彼女は安心し喜んでくれた。  そろそろ極上のパセリを彼女に見せなければと思う。  パセリは順調に育っていった。  しかし2ヶ月程経った朝、パセリに水を撒きに向かうと、動物に荒らされたのか、全滅していた。
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