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碧い死神
───その日はまるで、吸い込まれそうな満月
だったのをよく覚えてる。
どうしても見たい映画が遅い時間しか上映して
なくて、私は初めてレイトショーを経験した。
感動の余韻に浸りながら映画館を出るとだいぶ遅い
時間だと言うのに驚くほど明るくて、ここは眠ら
ない街なんだなとそんな風に思う。
「おねーさん!今ヒマ?」
「…ヒマじゃないです。」
酔っ払ってるのか、赤い顔をした男の人がやけに
馴れ馴れしく声をかけてきた。
こういうナンパみたいなことは苦手だ。
辺りには同じように酔っ払った人達がたくさん
集まっていて、少し怖くなった私はあえて大通り
から外れて細い道へと入って行った。
ここなら人は誰も居ないし、絡まれることもない
だろう。
ホッと一息ついて足早に駅を目指す。
あんまり遅くなると両親が心配するだろうし
急いで帰らないと。
ヒールの音が歩く度にコツコツと響く。
何だかそれが寂しく思えた。
ただ暫くして、自分のヒールの音と重なって違う
足音が聞こえることに気づく。
荒っぽい足音だ。
ハッとして振り返ると、そこにはいかにもガラの
悪い目つきの怪しい男が立っている。
ビクッと思わず肩が震えた。
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