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角部屋の隣人
毎日退屈だ、と最近思うようになった。
と言うのも、コロナが流行り、自粛宣言がされて、外に出ないのだ。
つまりその分、人に会う機会がない。
最近は部屋に飾り立てた趣味の小物が一向に変化しなかった。
たまに外に出ても比較的安全を考慮した深夜だったり、有休をとった平日の昼前だったりする。
小物だって何でもいいわけじゃない。好みもあるし、厳選した宝物を飾りたいと思っている。
だから変化しない、という現状なのだが……全く。これでは堂々巡りだ。
俺はため息を吐いてキッチンに立ち、空になったカップを洗い流す。
ふと窓を見れば、うすらぼんやりと光が差していた。
「……散歩日和だな」
しばらく見ていたが、ふと思い立って水を止めた。
時計はもう昼過ぎを指していたし、祝日だからと外出はやめようと思っていた。
だが複雑なことに、本日発売の漫画の新刊があった。こればっかりは逃したくなかった。
「さて、と」
軽く身なりを整えて玄関のノブに手をかける。
――ガチャ。
その瞬間、右隣からも同じ音が聞こえた。
え、と思わず顔を覗かせる。何故ならそこは、先週まで空き部屋だったはずだから。
――誰か引っ越してきたのか?
丁度、家に入ろうとしている人がいた。
茶色いトレーナーに紺色のデニムのジーパン。黒と白のスニーカーは吐きつぶされて、汚れている。
つい癖で見た顔の上半分は、伸ばしっぱなしの前髪が覆っていて見えなかった。
「えっと……」
なんて声をかけようか迷っていると、彼女……見覚えのない女性が、聞き取りにくい小さな声で言った。
「先週……越してきた、田中……です」
それから、勢いよく頭を下げた。
「どうぞ、よろしく……」
それが彼女、田中美里との出会いだった。
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