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変わり者の彼女
一言で言えば、素晴らしい出会いだった。
まるでどっかの恋愛小説にありがちなものだったけど、それでも現実に起こるとやはりキラキラして見えるものなのだ。
そしてその日から、俺の外出率は上がった。
というのも、たまに隣人同士でお茶をするようになったのだ。これは田中さんからの申し出だった。
「この辺には友人もいないので……」
心細いのだと言う。
それなら、と俺は二つ返事で了承した。何しろ出会いが欲しかったのだ。誰でもよかったが、女性と話す機会などない俺には願ったりかなったり、と思った。
外に出る、と言っても、カフェやファミレスで少しお喋りをする、といった感じだった。
長居はしない。少なくとも一時間程度で退散する。
隣人ということもあって、寂しさもなく帰れるというのが、こんなにもほっとすることだとは知らなかった。
それが余計に、彼女との関係を輝かせていたのかもしれない。
そんな、楽しい日々を過ごしていた。
二か月が経った頃だろうか。彼女はふと言った。
「よければ今度、うちでコーヒーの飲み比べしませんか?」
とある休日のモーニングに、喫茶店での事だった。
俺は飲みかけのコーヒーを吹きそうになり、慌ててカップを下ろす。
「えっと、それって」
言いかけたところで、彼女は慌てたように両手を振った。
「へ、変な意味ではなくて、ですね。その、お金がそろそろ……」
「ああ、なるほど」
それに関しては理解できた。何せ外食。少しコーヒーを、と思っても、やはりお金は飛んで行ってしまうのだ。
ただ俺は男だから、と一度彼女に聞いてみる。
「俺はれっきとした男だけど……」
「佐藤さんは万が一を起こすような人なんですか?」
「いや、今まではないな」
「なら、お酒を飲むわけじゃないので……」
「わかった。それじゃあ」
万が一なことがあって、それが原因で彼女とのこの楽しい関係に水を差しかねないように、俺はしっかりと気を持って挑むことにした。
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