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番外編 僕とあいつのいちゃバリな日々 4
朝食のビュッフェが罪悪感半端ないので、僕らは陽が昇ってる間の暴飲暴食を避けるようにした。
ホントにここの朝食凄いんだよ。見たこともないようなフルーツが並ぶし、パンも種類豊富(しかも甘めのが多い)。カリカリベーコンは僕の好物だし、その場で焼いてくれるオムレツが美味しすぎる。で、つい食べ過ぎてしまう。
ということで、夜になると僕らはプールサイドのオープンバーへと向かう。ライトアップされたプールには、日焼けしたくない大人たちが、フロートに身を預けてぷかぷか浮いてる。
そこにひときわ光を集めているのがバーだ。そこで女の子が好きそうなカクテルなんか頼むと、いつも佐山はバカにするんだよな。
「またお子様みたいの飲んでるな」
僕はあまりお酒は得意じゃないんだよ。でも、こういうのもアルコール度数高いそうだから、気を付けないと。
店はカウンター席ばかりが10席ほど。お客さんは、僕ら以外端っこにカップルがいるだけだ。
「そう言えば、今朝、青山君からメール来てさ」
サラダやピザを注文して、これが僕らの夕食。フードはホテルビーチにあるレストランから持ってきてくれる。昼間は結構アクティブにしてるからお腹はすくんだよね。佐山はグラス片手にもうぐいぐいやってる。
「へえ、なんて?」
あいつはビール好きなんで、シャンディガフとかビールをベースにしたカクテルを中心に飲んでる。といっても、最後は結局ビールになるんだけどね。
「うん、例のあの変態プロデューサー、なんか捕まったらしいよ」
僕らを嵌めようとして嵌めそびれた柏木P。性懲りもなく悪さをしていたらしく、ホテルで若いシンガーといるところを連行されたらしい。
なにかと情報通の青山くんによると、起訴はないかもだけど、業界的にはアウトだろうとのことだった。
「ふうん。懲りないおっさんだな」
と、何故か気のない反応。でも、僕は見逃さなかった。あいつの口角がふいって上がるのを。
――――佐山のやつ。まさかなにかやったのか?
佐山は僕があの下衆に拉致される瞬間を録画していた。例の怪しい薬も奪ってたはずだ。
「あの、さやま……」
「んな話はどうでもいいや。乾杯しようぜ。今日も可愛い倫に乾杯!」
僕の言葉を遮るとグラスを掲げる。僕が小さくため息をつきながらグラスを持つと、今度は空いてる手で僕の顎を掴んだ。
「キスする」
言い終わる前に、いつものセクシーな唇を僕のそれに軽く触れさせた。
「な、なんだよもう」
僕はちょっとだけ小さくなって周りを見渡す。バーテンのお兄さんの口角がひくついている。見たな……。向こうのカップルはお互いに夢中で気が付かなかったみたいだ。
「ピザの味した」
あいつが舌で唇を舐めて言う。恥ずかしいな、もう。
「おまえのはビールの味だったよ」
お返しとばかりに僕。ちょっと触れただけだから味なんかわかんないけど、息はビールだった。
「え……駄目か? 嫌だったか?」
すまなそうに佐山が言う。何を今更。
「馬鹿……駄目じゃないよ。嫌でもないから」
僕はまた、あいつの黒曜石みたいな瞳を見ながら答える。おまえがこんなに好きなのに、何が嫌なもんか。
「俺も……何味でもいい」
そう言うと、またキスをしてくる。今度はしっかりと味を確かめるように舌を絡ませて。
僕は願う。バーテンのお兄さんもカップルの二人も、本能に忠実な僕らをどうか見逃してくださいって。
つづく
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