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第2話 初めてです
誰にも初めてはある。僕は二十四歳になるまで、女性と付き合っていた。そうなんだ。僕にまさか、男性を好きになる人生があるとは思わなかったんだ。
でも、それは少し違うかもしれない。
僕はただ、佐山巧を好きになったんだ。
「ま、待ってください。僕、初めてで……なんにもわからないんですっ」
この期に及んで、僕はまだ怯んでいた。場所は佐山に連れ込まれたホテルの一室、ベッドの上だ。ライブハウスでナンパされ、付き合いだして三度目のデートだった。既に、キス、は、した。
二度目のデート、その時はそれがデートなのか僕にはよくわかっていなかった。でも、佐山といると気持ちがふわふわして、頬が熱くて、今までの自分を覆す状態だったのは間違いない。それは、その帰り際のことだった。
「佐山さん、襟が入ってますよ」
佐山のジャケットの襟が中に入り込んでいた。僕は手を伸ばしてそれを直そうとした。彼の方が少し背が高いので、自ずと僕は上を向く格好になる。
すると、佐山は僕の伸ばした腕をぐいっと掴んできた。ギターを弾く大きな手だ。僕は心臓が止まるかと思った。
「な、なに!?」
僕の視界が突然暗くなる。と、同時にふわりと柔らかいものが僕の唇を塞いだ。それはずっと僕の目を虜にしてきた、彼の少し厚めの唇だ。セクシーでたまらない。この唇が僕に触れていると思うと、今度こそ僕の心臓は止まりそうだった。
佐山は空いてた右手で僕の顎を持ち、ぐいぐい来た。口の中には彼の舌が割って入ってきて、僕の舌を探す。僕はもちろんその舌に自分のを絡ませた。もう、必死。
頭の中が真っ白になって、そのうち立っていられなくなった。別のものがたってきたけど……それは言わなくてもいいか。
佐山に支えられて、そのまま気を失いそうになった。その後、どうやって自分の家に帰ったか全く覚えてない。
だから、今日、こうなっているのは自分でもようく理解できる。でも、本当に初めてなんだよ! 男性とのその、その、セックスは。
「心配するな。俺がリードするから、あんたは俺の腕の中にいればいい」
そんな風に佐山は僕に言った。
彫の深い綺麗な顔。二重の双眸、漆黒の瞳にそう言われて、僕はふっと体の力が抜けるのを感じた。
それからは無我夢中だった。佐山の熱い唇と舌が僕の体中を這いまわる。思わず声を上げてしまった。自分でも思いも寄らない声だったけど、それが佐山のお気に入りになったのだから人の嗜好はわからない。
「可愛い……倫、やっぱりあんたは最高だ」
僕は自分のものがガンガンに固くなっているのに気付いていた。今まで女性としてきたのは何だったんだろうと思うほど、全然違った。
天にも昇る気持ちというのだろうか。あいつに触れられたり、舌で舐めまわされたりしただけで、すぐにもいってしまいそうだった。いや、実際いったけど。
でも、あいつを受け入れた時は本当に失神してしまった。ほんの数秒だけど、気持ちよすぎたんだよ。
全てが嵐のように終わった時、僕は佐山が愛しくて愛しくて……絶対離れないと決めたんだ。
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