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第4話 ヤキモチ
佐山はモテる。節操がないくらいモテる。もちろんミュージシャンなんてそんなものだ。イケメンじゃなくてもギター弾ければモテるのに、佐山はイケメンだし、背も高いし、ガタイもいいし、さらにギターも凄いんだよ!(あ、ついでにあっちも凄いけど。)
モテない理由がない。ファンレターも男からも女からももらう。それを処理するのも僕の仕事だ。一応まだ売り出し中だから、無碍にもできない。ファンの方は大事にしないと。でも、お触りは無しだからな!
「まあ、俺はスタジオミュージシャンだから、そういうサービスはしなくて大丈夫だよ」
なんて能天気なことを佐山は言うけど、僕はもう気が気じゃない。そんなに気になるなら、マネージャーなんてしなければいいって? 冗談じゃない。あいつのセールスは僕が担当しないと、イケメンだからって調子に乗って、写真集出しましょうなんてことになりかねない!
僕は佐山にはプライベートをきちんと持って欲しいんだ。もちろん佐山もそれには賛成のはずだ。だからこそ、バンドを組んだりせず、サポートを続けているんだから。
しかし、今回のボーカル、あいつはなんだ? 曲の最中になんだかんだ、佐山に近づきすぎだろう! 首に手を回したり、この間は頬にキスしてた! どういうことだ? 佐山に気があるのか? ビジュアル系かなんか知らんが、そこそこイケメンなのがさらにイラつく。
「え? あれは演出だよ。ライブで女の子たちが喜ぶからさ。彼らと演る時は、いつもそうなんだよ」
「でもさ。あいつ、本気でおまえに気があるんじゃないか?」
「あほか! んなわけないだろう。そんなことも俺が気が付かないとでも思うか?」
と、佐山はけんもほろろに言うんだよ。僕がこんなに心配しているのに。
だから僕は、そのシーンになると、舞台袖からじーっとボーカル野郎を睨みつけてたんだ。リハーサルの時から、冷たい目で見続けてたしな。
今はそいつらのツアーに帯同しているので、いつも以上に気が疲れる。ファンばかりか共演者にまで気を使わなくちゃいけなくて、ホントに腹が立ってくる。ツアー中は関係者ってことで、このバンドのTシャツ着てるけど、今すぐ脱ぎ捨ててやりたかった。
ところが、今日のリハ。ボーカルは例の曲で佐山に絡んでこなかった。僕が胸を撫でおろしているのに、あいつったらわざわざ聞きやがった。
「どうした? あの演出はもうしないのか?」
「ええ? だってさあ」
ボーカル。そこそこイケメンの奴が僕をちらちら見て言った。
「佐山のマネさんが怖い目でオレを見るんだもん」
「ああ……」
――――う、ウルサイ! おまえが僕の佐山にべたべたするからだろう! 佐山も呆れたみたいに『ああ』ってなんだよ!
「佐山のマネさん、おまえにぞっこんなのな」
肩を聳やかすようにしてボーカルが苦笑い。ホントのこと、マジで言われて思わず赤面した。
「ああ、それはちょっと違う」
「違うって、何が?」
――――何が違うんだよ!? 佐山!
「俺もあいつにぞっこんだから」
僕はまたまた奴に心臓を撃ち抜かれた。佐山が僕の方を向いてウィンクする。すぐにも抱きつきに行きたかったけど、寸でのところで我慢した。
もちろん、その日のホテルで盛り上がったのは言うまでもない。僕はツアー中であるにも関わらず、佐山を寝かせない勢いで朝まで求め続けてやった。
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