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第88話 夜が明ける前に
空に広がる星々も凍えそうな零下の夜。けれど、ライブハウスの中は真逆の熱気に溢れていた。二度のアンコールに応え、佐山のクリスマスライブは盛況のうちに終演した。
「佐山……起きてるか?」
「んんっ? まだまだ大丈夫だぞ」
そう言って、僕の上に覆いかぶさってきた。
「馬鹿、違うよ」
メンバー、スタッフ入り乱れ、大騒ぎの打ち上げ兼クリスマスパーティを繰り広げた後、僕らは自分たちの城に帰ってきた。
今回の打ち上げでは、僕は佐山の隣に座らされ、もみくちゃにされた。荒っぽい歓迎だったけれど、物凄く暖かくて幸せだった。
二人ともかなり酔っ払ってたけど、部屋に帰ってすぐ、ベッドに直行した。思うことは同じだったんだね。
「お礼を言いたかったんだ。ちゃんと言ってなかったなって思って」
僕の上で眠い目をこすりながら微笑する佐山にそう言った。本能のままに重なり合って、気を失うように眠りに落ちていた。
起こすのはちょっと躊躇ったけど、記憶が熱いうちに言葉にしたかった。夜が明けてしまうと魔法が溶けてしまう。そんな気がしたんだ。
「お礼?」
「そうだよ。僕史上最高のクリスマスプレゼントだった。ありがとう」
僕は佐山に手を伸ばす。あいつの頬に指を触れ、少し癖っけのある髪へと滑らせる。指の先にくりんと髪が絡まった。
「たまには俺もやるだろ?」
「十分過ぎるくらいには」
佐山は嬉しそうに口元で笑うと、僕の両頬を大きな手で包み込んだ。
「目、閉じて」
あいつの言うままに目を閉じると、佐山はいつもの少し厚めの唇を僕の上に乗せてくれた。軽く食み、舌を絡ませ、あいつはまた僕の中に沈んでいく。
「んっ……あん」
「違ったんじゃないのか?」
僕の首筋に舌を這わせながら、意地の悪いことを言う。
「やっぱ……違わない」
佐山は鼻で笑うともう一度僕の唇を奪いにくる。
「いい子だ。俺もまだまだあんたが欲しい」
佐山の魔法の手が僕の感じるところをまさぐりだす。僕はまたあいつに身を委ね、快楽の海へと漂っていく。
「さやま……んん……」
あいつの背中に爪を立てる。ライブで浴びたスポットライトのような熱い光が僕の脳裏でスパークして、いつまでも煌めいていた。
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