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第90話 エピローグ
マネージャー日記 No.90
いつもギタリスト佐山巧の応援、ありがとうございます。それと、ここに立ち寄り、僕の拙い日記を読んで下さり感謝しています。
ネットや雑誌で佐山の記事を目にされた方も多いかと思います。音楽以外のことでお騒がせすることになり、申し訳なく思っています。
僕が佐山に出会ったのは、ここでも書いた通り、彼がサポートしたバンドのライブでした。ギターを弾く姿に一目惚れしたことがすべての始まり。それは嘘ではありません。
ただ、僕が惚れたのはギターだけでなく、佐山の全てでした。
僕はあいつが自分の思うような音楽をやり、自分の思い描いた人生を送れるよう、全力でバックアップしたいと考えました。僕がマネージャーをやろうと思った動機です。
「おい、倫、パスポート忘れんなよ」
「僕のセリフだよ。誰だよ、期限切れたの忘れてたのは」
「うっ……。あれから5年経ってるとは。光陰矢のごとし」
「アホかっ」
ですが、無我夢中の2年の月日が経って今、僕は佐山の支えなどではなく、ただあいつに魅了され続ける1ファンに過ぎなかったと思い返しています。
佐山を支えているのは、他でもない、彼と彼の音楽を愛してくれる皆様、そして、信じてついて来てくれたスタッフの仲間達です。僕も一緒に支えられていると勝手に思っています。図々しくてごめんなさい。
どうぞこれからも応援、よろしくお願いします。
佐山が思い描く音楽を世界に鳴り響かせる。僕らの共通の願いであり、僕の生きる糧です。
ようやくそのスタートラインに立つことが出来たかと思っています。また夏には、皆様にビッグなご報告ができるつもりです。楽しみにしていて下さいね。
マネージャー 倫
「倫、飛行時間はどれくらいだ?」
「7時間くらいかな」
正月三が日を文字通りの寝正月で過ごし4日。僕らは機上の人になった。待ちに待った海外旅行だ。
「ええっ! そんなに長いのか。我慢できるかな」
「何を我慢するんだ? トイレならいくつもあるぞ」
「あ、そっか。その手があったか」
「……おまえ、何考えてるんだ……。トイレには一人で行ってくれ」
「んん? まあいいや、どっちが先に誘うか見ものだな」
贅沢にもビジネスクラスでの航行だ。格安でペアシートのある便を選んだ僕の才覚。リクライニングでふんぞり返る佐山は、隣に座る僕の股間に手を伸ばしてきた。
「やめんかっ。CAさんに見えるだろうがっ!」
本当に見境のないやつだ。僕は仕方なく、もらった膝掛けを腰まで上げる。
口角を上げ、佐山が再び手を伸ばす。はあ……これじゃあ、本当に僕の方から誘いそうだよ……。
「愛してるぞ、倫」
二人の間の手すりを畳み、僕らは体をくっつける。僕の頭を自分の肩に乗せ、佐山がそう囁いた。
「知ってるよ。僕もだから」
膝掛けの下で僕らの手が触れあい、やがてしっかりと握る。
笑われたって構わない。僕らはこの世の誰よりも、お互いを愛しているのだから。
完結
ありがとうございました。
※番外編に続きます!
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