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番外編 僕とあいつのいちゃバリな日々 6
このホテルでの最終日。僕らは朝早くからプライベートビーチを散歩した。
僕は海よりプール派だけど(砂まみれになるのが嫌)、ここではシュノーケリングで綺麗な小魚を見たり、バナナボートで子供みたいに騒いだりしてきた。
その時の無邪気な僕らの歓声や佐山のはち切れんばかりの笑顔がスライドショーのように脳裏に浮かんでは消えた。
潮風が気持ちよくて朝日が肌に与えた熱をさらってゆく。
日焼け止めを塗っても少し黒くなった佐山の後を僕は無言で歩いた。
「あ、あそこで休もうか」
ビーチにはマッサージを受ける時用のテラスが点々と置かれている。早朝はもちろん誰もいないから、僕らはそこに腰を下ろした。
「遊んだなあ」
僕はため息をつくように口にする。佐山が肩に腕を回した。僕の鼓動が少し早くなる。
「俺もこんなに遊んだのは小学生の夏休み以来だ。頭空っぽになったよ。でも心は満杯」
「ええ、どういう意味?」
僕があいつの方に顔を向けたのを佐山は逃さない。視界が塞がれたと思うと同時に熱いキスが降ってきた。少し厚めの唇が僕のそれに触れ、しなやかな舌も動員してゆっくりと責められる。
「んん……」
「心はあんたで満杯」
何の照れもなく紡がれる言葉。僕はいつもメロメロになってしまう。お前を好きになってよかったって、毎回確認してしまうよ。
僕はしばらくの間、あいつの甘いキスに溺れた。
次に僕らが向かったのはバリ島の内陸部に位置するウブド。緑豊かな田園風景が広がる山間部だ。僕もここには行ったことがないので楽しみにしていた。
ホテルは少しランクを落としたけど、小さいながらプールがついていたりで充分。天蓋付きのダブルベッドにバリ特有の家具が並ぶ、渓谷ビューの部屋を選んだ。
こちらでは美術館に行ったり緑の中をウォーキングしたりと、ゆったり過ごすつもりだ。
「同じバリ島とは思えない風景だな」
ホテルの部屋に続いたテラスに出て、佐山が深呼吸をしている。
見渡す限り深い緑だ。渓谷には棚田もあり絶景と呼んでいい。それに景色ばかりか空気まで違う。気温も低く涼しくて、何より濃い酸素の味がした。
食事はヌサドゥァでの教訓をもとに朝食のビュッフェはやめ、部屋のテラスで食べることにした。ロビーにはおしゃれな露店が何件か並ぶので、そこから食べたいものを買ってくるんだ。
オーシャンビューのリゾートホテルよりもずっと落ち着いた生活が始まり、佐山がギターを抱える時間が長くなった。
バリは神々の島と言われるくらい、それを彷彿とさせる建造物や装飾品、音楽が溢れている。ウブドに来てその感覚はより深くなる。目にする絵画も宗教を題材にしたものが多かった。
きっとこれらのものは佐山にとって良い影響を与える。僕はそう確信していた。
つづく
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