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第1章 遭遇 2
青白い光が、辺りを淡く照らす。レイヴィンの掌に拳大ほどの光の玉が現れ、柔らかな光を放っていた。咄嗟に自分がしたことながら、レイヴィンは信じられない思いで掌を見つめていた。
「・・・すごい、君の力は本物だったんだね」
カイが驚いた顔で、こちらを見ている。子竜がゆっくり首を伸ばし、レイヴィンへ鼻面を寄せてきた。首周りの鱗が、光に照らされ鈍く光る。紅い眸が鋭く細まり、ぶるっと熱い鼻息が手に触れた。
「・・・灰銀竜、お前も感じるかい?お前達が力を分け与えていた民の末裔だよ」
カイが優しく語りかける。竜はカイの手に、頭を擦り付けて甘えた。
「あんた、こいつの気持ちが分かるのか?」
「うん、感情が直接流れ込んでくるみたいだ。こいつは人恋しがってた。こんな陰気な穴の中に独りぼっちで、心細かったんだろう」
カイは言葉を切り、悪戯っぽくレイヴィンを見上げた。
「今は、君に興味津々だ」
レイヴィンは引き寄せられるように子竜に近付き、もう片方の手で頭を撫でていた。つるつるして硬質な鱗の感触を掌に感じる。竜の身体は、乾いていて温かかった。
「・・・カイ、この後どうするんだ?こいつはどうなる?」
「見た感じ、この竜は孵化して半年といったところだ。翼の発達具合からしても、恐らくまだ飛べないだろう」
レイヴィンは光を掲げて、カイがもっと観察しやすいように照らしてやる。カイは更に屈んで、腹の下などを覗いて摩っている。竜の扱いには慣れているんだろうが、レイヴィンは冷や冷やしっぱなしだ。
「うん、栄養も足りてるみたいだ。お前の親は、お前を飢えさせないよう、よく頑張ってるな」
巣穴には、大方食い尽くした高山ヤギのほか、幾つかの骨が散乱していた。
「さて、後は糞を採取したいけれど、お前の親が舐めとっているか、何処かに運んで棄ててるみたいだな」
「おい、カイ。聞いてるのか?お前達はこの竜をどうするつもりだ」
レイヴィンが声を大きく上げると、カイはすっと人差し指を自分の唇に当てた。そのまま黙ってドローンを掴むと、素早くその電源を切った。
「この竜は、どのみちここから動かせないよ。まだ飛べないし、恐怖を与えると親を呼ぶ。竜の成長の為にも、親に任せるのが賢明だ」
「だが、王都は納得しないだろう」
「ああ、彼らは寧ろ親竜に関心があるだろうな」
レイヴィンは、不吉な予感に身を震わせた。これは、大きな争いの火種になるのではないか。恐らく先々帝の辺境統治以来の・・・。
レイヴィンの腕を温かい手が掴んだ。
「レイヴィン、俺を信じて欲しい。君にとっては、突然王都からやって来た、得体の知れない奴かもしれないが・・・。俺は、灰銀竜を守りたい。この子も親も、もしかしたら他にいる仲間も」
いつの間にか、レイヴィンの手の光は消えていた。暗闇が二人と子竜を包む。カイが更に顔を近づけ、囁くように告げる。
「俺達で、灰銀竜を守るんだ。レイヴィン、君の力を貸してくれないか」
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