頑張れ私!!

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頑張れ私!!

その日、私が暮らす北の地には、冬の到来を告げる雪虫がふわりと飛んだ。 薄曇りの空と同化してしまいそうな白くて小さなそのからだは、その名の通り、まるで雪が舞っているように見える。 教官が煙草のにおいをつれて教習車に乗り込んでくると同時に、前かがみになってフロントガラス越しに外を見上げて不思議そうに言った。 「ん? なんか見えるか?」   私はあわてて背筋を正した。 「いえ。あの……今、雪虫が飛んでたなぁと思って」   「そっか。今年もそんな季節になったか」 苦笑してくれた横顔に私も小さくうなずいた。 「じゃ、シートベルト。安全確認してエンジンかけてくださいっと」 私は肩をすくめ「はい」と答えると、シフトをドライブに入れてゆっくりとアクセルを踏んだ。 「それじゃあ出発。ぼんやり禁止な」 『車の運転なんてゴーカートみたいだよ』――なんて言った友人がいたけれど、いまだにその例えを一緒にできる意味が私にはわからない。 今までずっと頼りにならないナビ(助手席専門)だった。 そんな私が、車のハンドルを握るなんて一生ないと思っていたのに、今はこうして次の交差点を左折だから――と、進路変更で車をそちらに向かわせているんだから、自分でもすっごく驚いている。
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