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振り向かない?
――大好きなあの街、小樽までドライブなんて、いつになったらできるかな。
交差点に掲げられた小樽までの案内標識を見て、いまさらのように心でつぶやく。本当はそんな余裕なんてなかった。
10時10分の形に握った手も肩にも余計な力が入ってガチガチ。
頭の中は路上コースを覚えてこなかったことなんかじゃなくて、まったく関係ないことに支配されていた。
教官に注意されてしまうほど、ぼんやりする理由がちゃんとあった。
昨日、ふらりと立ち寄った本のリサイクルショップで、懐かしいものを見つけたからだ。
駅からほど近い自宅アパートに帰ってから、ほっこりしようとインスタントコーヒーを淹れた。それからおもむろにパラパラと頁を捲ってみると、栞代わりのようにひっそりとレシートが挟まっていたのだ。
よく見てみると見慣れたレンタルショップのレシートは去年の夏頃の日付で、どうやら邦画のDVDを購入した時にもらったものらしかった。
私は、無意識にレシートの下へ目を移した。
扱者 川西龍吾 かわにし りゅうご
――うそ。
思わず手を口にあてた。
そこには別れてしまった彼の名前があったのだ。
驚いた心臓が、一瞬ごろりと動いたような気がする。
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