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時間よ戻れ
――……だってアタシは龍吾より8歳も年上だよ。
それは、私にとって、一番のプレッシャーだった。
ぼんやりしていると冷蔵庫の警告音がピーピーと鳴り、ハッとして思わず乱暴にドアを閉めてしまった。
私は仕方なくジャガイモを剥き始めることにした。
――それだけでも気が引けてたっていうのに、もしもこの先、たった今、口にした『結婚』という未来が待っていることに期待しちゃって、何もかも上手くいかなかったとき、アタシはその悲しみをどこにぶつけたらいいかわからなくなっちゃうよ。
そう思うと、ジャガイモを剥いている段階で涙が出そうになった。
黙々と作業をするふりをして龍吾を盗み見ると、いつも笑って観ているはずのテレビ番組を黙って眺めているだけで、リラックスしていないその背中から、間違いなく張り詰めた空気が漂っていることは察することができた。
――そしたらアタシはそのとき何歳になってる?
龍吾に伝えられない心の声で、胸が苦しかった。
――きっとまわりからは「ほら、そんな年下と付き合うから振られるんだよ」なんて言われてしまうのがオチだよ。
きっと……。
「もしかして結婚したくないの?」
「え?……」
――「嬉しい!」って言うなら今だ!
「あ、うん。そんな感じ」
――何が「そんな感じ」だよ。もうバカすぎ私。
そして私は興味すらなさそうな態度と茶化すような声色で、背中越しにそっけない返事をしただけで、龍吾のリクエストだった辛いカレーライスを作り続けた。
時間は戻らない。
嘘をついた胸の真ん中が、ぎゅっとなって痛かった。
それから玉ねぎを切り終えて炒めて飴色になっていたというのに、涙が静かに頬を伝って流れ顎の下で止まった。
だから素早く手の甲で拭った。
沈黙の中でした夕食の味見の結果は、甘いでも辛いでもなく、しょっぱいだった。
何か違うことでも話そうと必死に言葉を探したけれど、その隙間を埋めることはできなかった。
そして気まずい空気が流れる中で、テレビの笑い声だけが響いていた。
――龍吾に……いや、誰かに頼って生きるのやめよう。
そうやっていつも勝手に決めつけて後悔するのが私だった。
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