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結局、後悔してみたり
龍吾が函館にいる自分の家族の話をしてくれるたびに、しっかり者の妹と共通の話題を探してみたり、厳しいけれどとことん彼を応援してくれる父親や、家業の手伝いと一緒に住んでいる祖母の世話をしている母親と上手くやっていけるだろうかと考えたりもした。
結婚は二人が結ばれるだけではなく、その家族も様々な色の糸で結ばれるのだから。
私の実家がある旭川には、小学2年のときに父と離婚してからパートに明け暮れた母親が一人きりで住んでいる。立派な家族の長男として生まれたところに、こんな私がノコノコと嫁ぎ自分の母親に何かがあれば迷惑をかけてしまうだろう……。
そうやって現実ばかり考えた。
――お門違いかもしれないな。
それでも、ちゃんと素直な気持ちで、ちゃんと泣いた日がある。
龍吾と付き合っているときに、高校時代の親友チエの結婚式があった。
チエはクラスも部活も一緒で帰る方向も一緒なこともあって、すぐに親友になった子だったから、結婚の報告を受けた時ときはすごく嬉しかった。
しかもめちゃくちゃ感動する結婚式で、何度も泣いた。
ウエディングドレスを着たチエが、泣きそうな顔で何度も彼と微笑み合う姿を見ていたら、羨ましくって、
――自分にこんな現実はいつやって来るの?
って考えちゃって、だんだんチエの顔がゆらゆら涙で滲んで見えなくなって、嬉しいのに悲しい涙まで流れていた。
そのせいで私は、二次会でお酒を飲み過ぎてしまったのだ。
ペースが早いという自覚はあったけど、お祝いお酒っていうのは本当に美味しくて、止められずテンションがいつもより倍増していた。
もちろんそのまま帰るはずのない私たちは、お約束のように三次会にカラオケに行くことになり、部活の顧問だった先生も誘うと仕方なく付き合ってくれて、みんな絶好調だった。
それから懐かしい話で盛り上がっていたら、昔の色々なことがいっぱいよみがえってきた。
「先生、よく言ってたよね。私たちに。あれ、いい言葉だって大人になったらよくわかる」
誰かが言った。
「あれって?」
「『あきらめたらそこで終わりだぞ』って言葉」
「なんだよ、その時はわからなかったのか?」
白髪混じりになった先生が呆れながら笑った。
「ぜんっぜん」
主役のチエがあっけらかんと答えると、みんなで笑った。
私も正直、全然わかっちゃいなかった…
適当な励ましだな、なんて思ってたから。
『あきらめたらそこ終わりだぞ』
先生が励ましてくれたありきたりな言葉が、何度となくひねくれた私の気持ちを変えようとした。
けれど、もう、あなたは大人です。と、もうひとりの私が暴走にストップをかけた。
――割り切ろう。
それで何を割り切ってきたというのだろう。
単純に自分をなだめているだけに過ぎなかった。
とにかくあの頃の私は、たった24時間後の明日という日にさえ、不安ばかり抱いていたのかもしれない。
自信がなくて「何か」や「誰か」のせいにして、傷つくことを最初から回避しようとして空回りばかりしていた。
でもそれは、大きな間違いだった。
もう遅いのだ……。
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