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夜の新宿、出逢いがしら
「ケンタウロスメイドの早美さん」
不安が溢れてて、でも優しいメイドさんはどうしていますか。
◇ ◇ ◇
それは一週間。ちょうど日付が変わる頃だった。新宿人馬町の交差点を渡ろうとしたら、ドォンドォンという物々しい音が聞こえた。男女の言い争い。そして3ナンバー車がビジュアル系みたいな服装を男を収容して走り去った。この町では日々の雑音に過ぎない。
ただ帰宅を急ぐリケジョの足を停めたのは赤信号をじいっと睨むジト目だった。
「あの…」
ただならぬ気配と覚悟を悟り、つい声をかけてしまった。女の子なんか興味なし女友達もウザイのに。彼女は尻に帆をかけて四つ足で走り去った。
「ダメです」
私はヒールを脱ぎ捨て素足で追いつきしがみついた。その程度で勢いは削がれない。地面を引きずられスカートの裾が盛大にめくれストッキングが伝線する。
「死んじゃだめです。世間が貴女を許さなくてもアタシが許します!」
するとふぅっと相手は地面にへたり込んだ。
そして私を睨んだ。
「お会計、五万五千円です」
「はぁ?」
思わず目が点になる。「もちろん税抜きです」
彼女はしれっと付け加えた。そしてジト目に戻った。「逃げられちゃいました」
五万円ですまない。気づけばズタボロになったニットスカート。
「どーすんのコレ」
私が裾を詰まんでみせると女はふうっと吐息した。
「そうですね。替えのお洋服はあります。フリフリでよろしければ…」
女は四つ足のままふわっと衣服を翻して見せた。
「じ、自分でタクシー呼びます」
アプリを立ちあげようとして、スマホがない。いや、バッグもない。
「まぁ…富良野小雪さんとおっしゃるのね…」
四つ足の女は肩にバッグをかけ、二の腕で器用に持ち物検査していた。
「こらこらこら、おばさん!」
私が奪い返そうとすると彼女はちょっと怒ったように言った。
「あたくし、ケンタウロスメイドの早美です!」
は、早美さん…。
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