町中にて

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町中にて

「……もし。少々お伺いしたいのですが」  逢魔時(おうまがどき)の町中で、すれ違う町人を呼び止めたのは小柄な人物だ。  笠に脚絆(きゃはん)、小さな荷を持った旅の装いの彼は、名を玉瀬(たませ)という。数えで十五、人懐こい笑顔の少年だ。  声に振り返った町人が、まじまじと見つめて問うてきた。 「おや、どうしたんだい?」 「はい、実は人を捜しておりまして。少し前にこの地に来ているはずなんですが」  聞けば、年の頃は三十代前半の男で、身の丈は五尺四寸五分(一六五センチ)ほどというから人より少し上背があるようだ。太めの眉に切れ長の目をした、なかなかに凛々しい人物らしい。  なるほど、目の前の少年とは真逆の見目に思われた。 「そうさなあ。なんせ大きな町だから、皆と顔見知りとはいかんし」
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