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御神木と庵
件の地には、案外早く辿り着いた。
賑々しさから少し離れた町の外れ、これより先は徐々に山へと至る……そんな場所だ。
そこでまず、堂々たるけやきに目を見張った。頭上高くに広がった枝葉に威厳を感じる。重厚な幹と根から察するに、かなりの樹齢だろう。崇めたくもなるというものだ。
玉瀬は律儀に手を合わせてから、周りを見やった。
「あれか」
町人の言葉どおり、庵とおぼしき建物が目に入る。
玉瀬が逡巡している間に、気配を感じたか、相手のほうから顔を出してきた。
「あら、旅の方ね。そんなに難しい顔をして、どうされたの?」
耳心地の良い声だった。何を考え込んでいたのか忘れるほどに。
視線を向けると、そこには年嵩の女性が一人。白髪混じりの髪を後ろに緩く結い、地味な色味の小袖をまとっている。柔和な表情や立ち居振舞い、全てから上品な印象を受けた。
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