ワタルとサクラ

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ワタルとサクラ

生まれて初めて父に連れられ片道2000キロと言う距離を飛んだ、あの日。 高い山を越える辺りで、黒く大きなカラスの群れに襲われた。 ″ 逃げろ!!ワタル!! ″ その声を最後に、父の姿は見る事は無く、クタクタで疲れた身体に必死に鞭を打って、逃げた先に他の木とは違う、何百年という永い歳月を生きてる山桜に出会った。 彼のお腹には小さな穴があって、そこで体を休ませてもらったんだ。 ″ 父さん…… ″ 知らない土地で色んな事を学ぶはずだったのに、父さんが居ない事に不安になって、少しの間、動く事が出来なかった。 それでも空腹に負けて、蜘蛛を取ったり、美味しくない木の実を食べていれば、秋は真っ白な冬へと変わる。 俺が休んでいる木は全ての葉を失くしていたけれど、休んでる時に聞こえる鼓動は強く生きてるんだなって実感出来た。 この辺りに他の仲間はいないらしく、俺は俺なりに好きに生きていた。 「( なんか……桃色の蕾? )」 暑いと感じ初め、日影でよく休む頃にあの木は葉を持ち、桃色の蕾を付け始めた。 「 おい!そこのチビ!そろそろ渡らねぇと、遅れっぞ! 」 「 えっ?待ってくれ!俺はこれを見て行きたい! 」 蕾を見ていれば頭上から聞こえた声に、顔を向ければ、其処には数羽の同じ鳥達が飛んでいた。 俺は父親に″ 仲間が飛び立つ時には、着いていかなきゃいけない ″と教えられていたけど、この蕾を知りたくて、蕾と彼等を交互に見た。 「 は?桜を見て飛び立つとか、遅過ぎるだろ 」 「 いいじゃない。私も若い頃は見たものよ 」 「 お姉さん!これは、サクラっていうの? 」 「 えぇ、山桜。人はそう呼ぶよ。もう数日で開花すると思うから、見るといいわ。私達は、先に飛び立つけどね 」 「 わかった!ありがと!! 」 年上のお姉さんに挨拶をすれば、周りのオス達は呆れたように顔を見合わせていた。 「 1羽で戻るのは大変だろうが、頑張れよー 」 「 んじゃ、チビ。故郷で会おうぜ! 」 「 うん!!お先に行ってて! 」 両手を振れば彼等は一斉に渡りを始めた。 こんなにも、この山に居たのかと驚くけど彼等が向かう先は故郷の為に忘れるはずがない。 「( もう少し…待ってみよう! )」 暑いけれど、山桜が花を咲かせるのを見る為に……。
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