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往復を含めて、冬の間にも沢山の危険があったけれど、
春になりサクラが目を覚ます時に、一番に見るのが俺がいいから、待っていた。
冬から秋にかけては、サクラの木を綺麗にして、蜘蛛の巣が付かないように食べたり、追い払ったり。
他の鳥が来れば止まらないように威嚇して、喧嘩し合ったり。
そして…また仲間達が飛び立った後、
日照りが続けば蕾は笑顔を向けてくれるように、サクラ色の花を咲かせる。
「 おはよう、サクラ!! 」
「 ふぁ〜。おはよう…。ワタル 」
俺が此処に通い初めて5年の月日が流れた。
同じ時期に生まれた仲間より少し長生きしてるのは、サクラの周りには大きな敵が少ないのが理由かも知れない。
けれど、俺が此処に来れるのも今年が最後だと気付いてるから、どこにも出掛けることなく、サクラの傍に去年よりずっといた。
「 ワタル、今度は君が眠る番かい? 」
「 そう…みたい。飛ぶのも疲れてさ、情けないよな 」
「 そんなこと無いよ。君はよく頑張ったよ。いつも来てくれるたびに向ける笑顔や、この老いぼれを綺麗といい、愛してくれた。貴方ほど素敵な鳥はいないよ 」
サクラの甘い香りと柔らかな膝の上で、俺は少し昼寝をすることにした。
身を任せて、頭を撫でられるこの手が大好きで、気持ちよく。
柔らかみのある綺麗な声が震える感じがして、気付いたら頬へと滴が落ちてきた。
「 サクラにそう言ってもらえて嬉しい… 」
「 えぇ……ワタル。また来てね。ボクはずっとここで待っています 」
「 うん……また、春に会いに来るよ…… 」
雨の日は寄り添って、晴れの日は沢山話して、
お互いに子孫を残す事すら考えられないほどに愛し合って。
そしてまた春に会いに来る。
2週間の、ほんの身近な時間だけ俺にとって幸せだった。
サクラ、また春に会いに来るよ。
とある深い森奥に、2週間だけ花を咲かせる、
千年桜が存在するという噂があった。
その花が咲いた桜の下で、願い事をすれば叶うと言われていた、幻の桜。
人間が踏み込む事が出来ない場所とされていたが、
とある若き青年はリュックを持ち、その山へと入れば迷う事なく千年桜の前へと辿り着いた。
「 久し振りサクラ。君に会いたかった 」
リュックを置いた青年は両手を差し出せば、その腕への中へと、サクラが舞い降りた。
「 ボクもだよ、ワタル 」
受け止めた青年は黒髪を揺らし、薄い白に近くなった桜色の髪を靡かせる彼の後頭部に触れれば、お互いに視線を重ね、何方とも無く口付けを交した。
「 愛してるよ、サクラ 」
桜の蕾が開く頃、
彼等は何度も巡り会い、
そして…永久に愛し合っていた。
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