ワタルとサクラ

3/3
前へ
/3ページ
次へ
往復を含めて、冬の間にも沢山の危険があったけれど、 春になりサクラが目を覚ます時に、一番に見るのが俺がいいから、待っていた。 冬から秋にかけては、サクラの木を綺麗にして、蜘蛛の巣が付かないように食べたり、追い払ったり。 他の鳥が来れば止まらないように威嚇して、喧嘩し合ったり。 そして…また仲間達が飛び立った後、 日照りが続けば蕾は笑顔を向けてくれるように、サクラ色の花を咲かせる。 「 おはよう、サクラ!! 」 「 ふぁ〜。おはよう…。ワタル 」 俺が此処に通い初めて5年の月日が流れた。 同じ時期に生まれた仲間より少し長生きしてるのは、サクラの周りには大きな敵が少ないのが理由かも知れない。 けれど、俺が此処に来れるのも今年が最後だと気付いてるから、どこにも出掛けることなく、サクラの傍に去年よりずっといた。 「 ワタル、今度は君が眠る番かい? 」 「 そう…みたい。飛ぶのも疲れてさ、情けないよな 」 「 そんなこと無いよ。君はよく頑張ったよ。いつも来てくれるたびに向ける笑顔や、この老いぼれを綺麗といい、愛してくれた。貴方ほど素敵な鳥はいないよ 」 サクラの甘い香りと柔らかな膝の上で、俺は少し昼寝をすることにした。 身を任せて、頭を撫でられるこの手が大好きで、気持ちよく。 柔らかみのある綺麗な声が震える感じがして、気付いたら頬へと滴が落ちてきた。 「 サクラにそう言ってもらえて嬉しい… 」 「 えぇ……ワタル。また来てね。ボクはずっとここで待っています 」 「 うん……また、春に会いに来るよ…… 」 雨の日は寄り添って、晴れの日は沢山話して、 お互いに子孫を残す事すら考えられないほどに愛し合って。 そしてまた春に会いに来る。 2週間の、ほんの身近な時間だけ俺にとって幸せだった。 サクラ、また春に会いに来るよ。 とある深い森奥に、2週間だけ花を咲かせる、 千年桜が存在するという噂があった。 その花が咲いた桜の下で、願い事をすれば叶うと言われていた、幻の桜。 人間が踏み込む事が出来ない場所とされていたが、 とある若き青年はリュックを持ち、その山へと入れば迷う事なく千年桜の前へと辿り着いた。 「 久し振りサクラ。君に会いたかった 」 リュックを置いた青年は両手を差し出せば、その腕への中へと、サクラが舞い降りた。 「 ボクもだよ、ワタル 」 受け止めた青年は黒髪を揺らし、薄い白に近くなった桜色の髪を靡かせる彼の後頭部に触れれば、お互いに視線を重ね、何方とも無く口付けを交した。  「 愛してるよ、サクラ 」 桜の蕾が開く頃、 彼等は何度も巡り会い、 そして…永久に愛し合っていた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加