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家族
今日はいい天気だ。レースのカーテンから光が差している。いよいよ芳原先生の弟さんと会う。携帯の返事には、
「了解しました」
とあった。
姿見で制服の赤いリボンを整えて、階段を降りリビングに辿り着く。
「おはよう、美夏」
父が味噌汁を飲みながら、挨拶をしてくれる。母は父のどんぶりに二杯目のご飯をよそっていた。いつもの風景。私を育んでくれた家庭。大切な宝物だ。
「お父さんお母さん、おはよう」
「美夏、今日はあなたの好きな子持ちししゃもがおかずよ」
母が、お皿を渡してくれる。
「ありがとう、いただきます」
母の料理はとても美味しくて幸せな気持ちになる。彼女の入れる紅茶もそうだ。ティーカップをしっかり温めてくれているからさらに美味しい。そういう手間を惜しまないところが好きだ。
ごちそうさまをして、
「行ってきます」
と出発した。
通学路で最初の角を右に曲がると、なんと森君が私のことを待っていた。
「森君どうしたの? 何か用があるのかな」
と私が訊くと、
「芳原と会うのか?」
と心配そうに彼は質問で答えた。
「うん、会うよ。芳原君は私の家庭教師の弟さんなんだ。お兄さんにはとてもお世話になってるし、会わない理由はないよ」
「そうか……。ていうか鈴木、家庭教師が付いていたんだな。初耳だ」
森君は、ちょっと不愉快そうだったが心配してくれている様子だった。
「二人っきりで会うのか?」
「うん。この件は加奈子に頼む訳にいかないもの」
「鈴木、塚本に頼ってもいいんじゃないかな。俺はそう、お、思うぞ」
森君は明らかに動揺していた。何でだろうと私は疑問に感じる。どちらにしても芳原君に会う予定は変わらない。
そして森君に思っていたことを伝えた。
「あの、私が加奈子に頼りすぎてたことを指摘してくれてありがとう。森君が叱ってくれなかったら卒業まで気付くことが出来なかったかもしれない」
「俺は、ずっと鈴木を見ていたんだ。だからお前のことなら大概の事は知っている」
「何で私なんかを?」
思わず漏らす。しかし、答えを聞くことは出来なかった。学校に着いてしまった。タイムアップだ。
「何か心配事が出来たらすぐに言えよ。塚本も俺もついてるからな」
過保護だと思いながらも、私は一人ではないことが嬉しく、だから自分で答えを出したいと感じていた。
そしてチャイムが鳴り、放課後校門を出て『サンタモニカ』へ向かう。時刻は十六時十分。早く着きすぎたと思ったが、席に着く。クラシックな趣のある扉の鈴が「チリリン」と鳴る。そっと、足音が後ろから近づいてきた。そして耳の近くで、
「初めまして鈴木美夏さん」
ひんやりとした声が響いた。思わず席を立って見つめると、そこには長身の少年が立っていた。
切れ長の目に高い鼻梁、薄い唇。バレエダンサーのようなしなやかさがあった。先生とは違うタイプの目を惹く人だった。
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