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ラブレター
今朝も家族三人でご飯を食べている。母の料理はいつも美味しく、栄養のバランスもとれていた。銀行員の父は、新聞を読んでいる。真面目そうにみえるが、わかりにくい冗談で私たちを笑わす陽気な人だ。
物心ついたときから朝食は必ず家族揃ってとるのが習慣となっていた。父に学校の話をして、
「そうか、美夏も卒業が近いんだなぁ」
のんびり言われるとなんだか安心する。
「敏雄さん、そうなのよ。美夏も年頃に差しかかりますわ」
「遠くに行っちゃ父さんは嫌だよ~」
「もうこの人は情けない声だして。この子は高校も家から通いますよ。気が早いのよ敏雄さんは」
母と父の仲睦まじい様子を見られるこの時間が好きだった。
「ごちそうさま」
ほぼ三人同時に食器を台所に運んでいく。母が食器を洗い出す。
自室に向かおうとしたときに、父が話しかけてきた。
「美夏はがんばっているんだな。顔つきがずいぶんしかっりしてきた。お父さんは嬉しいぞ!」
父に褒められたことが嬉しくて笑顔で彼に抱き付いた。
「でもな、美夏。何でも一度に解決しなくていいんだ。急いでに大人にならなくていいんだぞ」
うんうんと頷きながら伝えると、父は真剣な顔をしたまま私の頭を撫でる。こそばゆくてなんだか温かった。
問題は解決してなかったが、心強い気持ちで今日は登校することが出来た。
いつもの昇降口。だが、下駄箱に違和感を感じる。何か紙が入っていた。よくみてみるとそれは手紙で、まじまじとその物体を凝視してしまった。薄いブルーの品の良いシンプルな封筒で、表に『鈴木美夏様』と書いてあり、裏に『芳原兼人』と書いてあった。
「う~ん」
と唸っていた所、
「どうしたんだ鈴木?」
「あっ、森君」
心配そうな森君が傍にいつのまにか立っていた。咄嗟に手紙を私は鞄の中に入れようとする。しかし森君が私の右腕を握って離してくれなかった為に失敗した。
「森君、離して!」
私はきつい声を出していた。
「鈴木ごめん。急に腕つかんだりして、びっくりしたよな」
森君は大きな瞳に長い睫毛を瞬かせながら反省したようすで謝ってくれた。
「うん、男の子って力強いんだね、ちょっと焦って混乱しちゃった」
「まあな。ところで鈴木一人で、ラブレターなんかに対応出来るのか?」
「これは、ラブレターなの?」
素っ頓狂な声で私は言った。
「芳原は、悪戯でこういうことするタイプじゃない。この学校で俺が認める数少ないライバルだ! まさか好きな人まで一緒になるとは」
「あ! 今どさくさにまぎれて森、美夏に告白したね」
加奈子も登校して来ていたようだ。
「いつの間に。どこから出てきたの?」
思わず私は突っ込みをいれずにはいられなかった。でもなんかホッとしていた。森君の言い回しが気になりはしたが、二人の心配が嬉しかった。
でもこれは私が答えを出さなきゃいけないことだ。相手が真剣ならばなおさらだ。
「大丈夫、きちんと手紙読んで返事するよ」
と言うと加奈子が、
「美夏変わったね。いい風に」
「ありがとう」
「俺は見抜いていたがな。まだ鈴木にはのびしろがあると」
森君何を根拠に私に期待してくれるのだか、笑ってしまった。それでも二人には感謝の気持ちでいっぱいだった。
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