そして空を見上げた

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そして空を見上げた

高校時代に空ばかり見ていた友人がいた。 「どうしてそんなに空ばかり見上げているんだい?空ばかり見ていたって、自分のちっぽけさを思い知らされるだけじゃないか。そんなことより地面を見ていたほうがよっぽど楽しいよ」 と僕はその友人に尋ねた。すると友人は、 「僕は悪夢が見たくて空ばかり見ているんだ」と言った。 「空ばかり見ていた日の夜には、とびきり上等の悪夢を見ることが出来るんだ。僕はそいつを楽しみにしていて、それで空ばかり見ているんだよ」 空ばかり見ていると悪夢が見られるというその意見を、僕は妙に説得力があるものとして受け止めた。そこで僕は、 「例えばどんな?」と聞いた。 「覚えていない」 それが彼の答えだった。 「君は昨日見た雲の形を覚えているかい?そんなものちっとも覚えていないだろう。悪夢だって同じさ。夢から目が覚めたときにはその恐怖心をありありと憶えている。でも、次の日の朝には何一つだって覚えちゃいないのさ」 僕は昨日見た雲の形をはっきりと覚えていたが、黙っていることにした。
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