花のカタチ

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花にはそれぞれ形がある。 それは形はもちろん、匂いや色、種類から生える場所まで。ありとあらゆる形があって1つの花が形成される。 ここはとある小さなお花屋さん、毎日丁寧に花の管理をし綺麗な状態でお客様へ渡すお仕事。 その花屋の一角に僕はいた。 店員さんはもちろん僕を可愛がってくれた、でも他の子たちとは少し違った、僕は少し埃を取ってもらうだけ、他の子たちみたいに水換えや花弁の様子の確認等はしてくれない。それが少し寂しかった。 僕だけ違うのは少し前から気付いていた、前にお客様に渡した赤い薔薇の子は陽気に僕に話しかけてくれていたが僕とは違って蕾の状態から花が開くまでいた。僕はずっと花が開いたままだ、それを不思議そうに毎日話しかけてくれた薔薇だった。 ある日目の見えない老婆が花を買いに来た。 老婆は目が見えない代わりに手でたくさんの花たちを撫でた、そしてそっと僕にも触れた。 「これ1つ下さいな」 「それは…」 「老い先短い私より先に居なくなっては悲しいからね…だからこれを1つ頂戴」 そう言って僕はその老婆に渡された。 老婆の家はとても静かだった、静かにゆっくりとここだけ違う時間で進んでいるようなそんな空間だった。 「君は何故買われたのか分からないという感じかね…私の話を聞いてくれる花たちはすぐ居なくなってしまうからね……こんな年老いの話でも付き合ってくれないかい」 老婆はそれからずっと僕に話をし続けた、長い長い話、僕が生きてきた時間よりずっと長く生きてきた証。 「こんな年老いの話に付き合ってくれてありがとう」 それが彼女の最後の言葉だった。 話さなくなった老婆を見て言葉に出来ない思いが溢れた、話さなくなって僕の埃も取らなくなった、これが彼女の言っていた孤独というものなのだ。 僕は造られた花だった、蕾も手入れも水も死も知らない、造花と呼ばれる命のない花だった。 それが彼女によってたくさんの言葉や感情、全てを僕にくれた。彼女が僕に命という花を開かせてくれたのだ。彼女によって色や形や匂い、全てに命がある事を教えてくれた。 老婆の隣には古い瓶に一輪だけ入った青のカーネーションが飾られていた。
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