かがみよ かがみよ かがみさん

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 眼前にはかがみの疲れ切った顔。しかしその顔が見えたのも一瞬。  俺の唇に柔らかい何かが当たる。一体何が起きたのか俺は一切理解できず硬直するしかなかった。  背後から「おお……」だの「あらま」だの聞こえてくるが、振り向きたくともかがみががっちりと俺の顔を固定しているから動かせない。  一体何が起きているのか理解できたのは、口内を思いっきり吸われた時だった。  じゅるるるるるるううううと激しく吸い上げる音が耳の中で響いてようやく口づけされたと気づいた。いやもうこれ口づけと言っていいレベルなのだろうか。唾液と言う唾液全てを吸い上げられている勢いである。俺は赤面するどころではなく、とりあえず自分の舌が吸い取られないよう抵抗するのに必死だった。  軽く1分は吸われていただろうか。ぷはっとかがみが口を離したところでようやく酸素が体内へと舞い込んできて盛大に噎せ返った。 「うぇっほ、げほっ!」 「団子よりこっちの方が手っ取り早い。すまんがボク、しばらく寝るわ」  口元を手の甲で拭いながら言うかがみ。  そして言うが早いか、俺の腕の中で横たわっていたかがみは一瞬にして、跡形もなく消えた。  自分の両腕にはまだかがみの温もりが残っている。ついでに言うと唇にも残っている。気のせいかめちゃくちゃ濡れている気がするが。  なるほど、霊力回復するために俺の体液をこれでもかと吸い上げていたんだな。確か前に俺の霊力はねまなこことやらだから美味いだなんだ言っていたっけ。だけどやり方が激しすぎて俺動けない。決して腰が抜けたわけではないからな。  しばらく硬直していた俺だったが、ようやく右手で口元を押さえてガクッと力が抜けるも、倒れ込まないように左手で体を支えた。  「……初めてだったのに……」  思わず女々しく泣いてしまった。俺だって初めては可愛い彼女としたかったよ。何が悲しくて怪異としなきゃいけないんだよ。 「ドンマイ」  ポン、と背後から俺の肩に手を置いて慰めてくるおっさん。ちょっと待て、この人勝手に団子食べてる。  ようやっと動かせるようになった顔で後ろを振り向けば、曽祖父とはまた違った方向で目に感情が宿っていないトミさんが無表情で団子を食べていた。  人の残念なファーストキスを見ながら食う団子は美味いか?
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