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「……今日も学校行かないのか?」
すべてを失って、得るものもない。母さんの葬式も終わり、僕は何日も学校に行くことができずに部屋に閉じこもり気味だった。
父さんは僕が学校でいじめられてることを知らない。それでも母さんのことがあって僕に学校に行くことを強要することはなかった。
「仕事行ってくるからな。今日はちゃんとご飯食べるんだぞ」
「……うん」
すべてがどうでもよかった。理不尽な世界で理不尽に失って。辛いのは僕だけじゃないことは父さんを見ていれば分かる。僕に見られないようにこっそり泣いている姿を見る度に僕はまた一つ何かを失う。
もう失うものなんて何もないはずなのに?
こんなに絶望するのは僕に人間としての心がまだあるからなのだろうか。
「転校してもいいんだぞ?」
「転校?」
なんでそんなこと?
「母さんが言ってたんだ。学校で何かあったんだろうって」
母さんが?
「助けてやってほしいって」
「……」
「ごめんな、頼りない父親で」
最後にそう言い残して父さんは仕事に行った。いつもと変わらず辛そうな顔で。
『どうしたの?元気ないみたいだけど』
母さんはいつも僕のことを見てくれていた。気づいてくれていた。死ぬかもしれないという状況でもなお、僕のことを心配するなんて。
「父さんも母さんも勝手すぎる」
僕には何も言わないで勝手に辛いのを我慢して、僕のことばかり。転校してまた一からやり直すべきだろうか。それでもまた失ってしまったら?
その瞬間、今までの出来事が走馬灯のように一気に駆け巡った。
……ちょっと待てよ?
頭の中で何かが弾けるような音がした。
ふふふ、ははははは。
誰かの笑い声が聞こえた。
「お前はいったい何の心配してんだ?」
これ以上失うものなんて何もないし、今更そんなの
「どうでもいいだろ?」
なんでわざわざ僕が逃げなくちゃいけないんだ?
いろんなものを理不尽に奪われたのに、なんでもがき苦しまなくちゃいけない?
苦しむべきなのは奪ったやつらのはずだろ?
くだらない怒りや憎しみが僕を執拗に駆り立てる。
僕は何もしていない。なのに全て失ったのはこの世界が腐っているからだ。
この狂った世界を憎む。もう何も、誰も信じることなんてできない。
最初から無意味だったんだ。誰かと同じように生きようとすることなんて。誰かに何かを求めることなんて。欲しいものは全て自分で手に入れる。
振り返らず前だけを向いていればいい。自分が進む道だけを。
「父さん、明日からは学校行くよ」
仕事が終わってご飯を食べている父に話しかける。振り向いた父さんの顔には相変わらず疲れが見える。
「本当にいいのか?」
「うん」
父さんの心配する顔が、あの日の母さんの顔と重なる。
──振り返るな。
分かってるよ。
「俺はもう、大丈夫だから」
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