1.天秤と正解のない選択

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 ***    六月に入り、本格的に梅雨が始まった。  綺麗に咲いていたはずの桜が時期のせいか梅雨による雨のせいか、すべて散ってしまった。桜は咲いてるときも散るときも美しいと言われているけど、花の散り方なんてどれも同じではないのかとまた冷めたことを思う。  散り際が美しいなんて言われて、桜も嬉しくはないだろう。花は咲いてるときこそ美しい。  今日も朝から雨が降り続く。  クラスには雨による湿気のせいで髪の毛が普段とちょっと変わってしまっている人もいれば、靴下が濡れたのか裸足の人もいる。いきなり降り出したわけでもないのだから靴下の替えくらい持ってきてほしいと思う。  小さいとき、雨は空が泣いているから降るのだと教えられたことがある。そんなことを言われた子供だった僕は、空はどんな理由があって泣くんだろうとずっと考えていた。純粋に答えが知りたかった。  そして僕は空を見上げるようなった。今では何気なく空を見上げているけど、始まりは小さな好奇心だった。  結局答えを見つけることができないまま、雨が降るのは水蒸気や上昇気流によるものと本当のことを知ってしまった。真実なんてつまらないなと思った記憶がある。何でも解明すればいいってわけではないのかもしれない。 「テストかあ、めんどくさいな」  今日は定期テストがある。テスト期間はそれなりに勉強をしていたので普通に点数は取れる。隣の席からは「俺ぜんぜん勉強してないわあ」という声が聞こえてくるが、嘘をつくならその眠そうな顔と目の下のクマを隠してからにしてほしい。  テスト目前になるとどうせ勉強してるくせに、嘘をつきたがる人は多い。  もしもの時のための保険、そんなことをして何の意味があるのか僕には理解できない。最悪の場合に備えるくらいなら普段からちゃんと勉強はしておくべきだと思う。    雨による湿気も相まって憂鬱だ。やる気も出ないしめんどくさい。テストがというわけではなく、この学校生活が。ただ生きていることが。    テストは三日間にわたって行われたが、難なく解くことができたため、ほとんど予想通りの何の問題もない点数だった。あくまで自己採点の結果であり、さらに正確に言うと自己採点なんかしてなく、手ごたえ的な話だ。  隣の席の彼はテスト中うつらうつらしながら頭を抱えいた。彼の言う通り、勉強をしていなかったのだとしたら申し訳ないことをしてしまった。心の中で軽く頭を下げる。
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