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その後も僕の退屈な日々は続き、世の中では梅雨明けが発表された。雨の日みたいなジメジメした空気と打って変わって、カラッと乾燥した空気があたりを包み込む。太陽による日差しを少しでも避けようと日影がある場所を夏場は通るようにしている。
朝は少しでも長く寝ていたいため、家から学校までは電車で通う。駅から歩く学校までの約十分間は夏が嫌いな僕からしたらなかなかに地獄で、おまけに人の多さもプラスされて地獄どころではない。熱量が人よりも低い僕でも夏の暑さには敵わない。
「今日はほんとに暑いね」
乗る駅は違うが、同じ電車を使う彼とは学校まで一緒になることがたまにある。
「あれ?今日は眼鏡なんだね」
「コンタクトつけるの忘れちゃってさ」
わざわざコンタクトを付ける意味がないと思った最近の僕は眼鏡生活を選んだ。眼鏡をかけなくても何とか見えるのだが、誰かに迷惑をかけないよう眼鏡をかけていた。僕が眼鏡をかけていることなんて大半の人は気づきもしないだろうけど。
「目が悪かったなんて知らなかったよ」
ニコニコ笑いながら彼は滴る汗をタオルで必死に拭っている。彼はいつも暑がっている様子が見てとれるので、相当な暑がりなのだろう。もっと本格的に夏が始まってしまったら、持ってくるタオルの量も増えてしまうかもしれない。
学校に着き、冷房の効いた教室に入ると生き返ったような気分になる。生き返ったような気分になるのだが、つまらない一日が始まると思うと生き返った意味もあまりない。
「おはよう!」
暑い上につまらない授業も始まるという朝一番でも彼女は元気なものである。バスケで培った体力なのか、そういう体質なのかは分からないけど、その元気は僕にはあまりいいものを与えてはくれない。熱力が違いすぎる僕らは同じ次元にはいない。
「おはよう」
「おはようございます」
二人で挨拶を返す。これも毎日のように行われる恒例行事のようなものである。
「空野くん元気ないね。もっと元気出していこーよ。きついかもしれないけどさ、もっとやる気ださないと!」
やる気がない、か。
僕はもともと人より熱量が低い。僕がどんなに熱くなったとしても人並みにすら熱量が上がることはないだろう。そんな姿を傍から見れば元気がないように見えるかもしれないし、やる気が無いように見えてしまうかもしれない。
熱が一気に冷めてしまったあの日からずっと言われ続けてきた言葉。もっとできるんだからやる気を出せと。僕はやる気や熱量に関わらず、できるだけのことはやってきたつもりなのに何が不満なんだ。なぜ僕のやる気どうこうを赤の他人が決める。
僕のことなのに他人に何が分かる?
「……いつも通りだよ」
僕の言葉に少し苛立ちが混ざる。
「そう?ならいいんだけどさ。もうすぐクラスマッチが……」
「もういいかな?」
「……え?」
「職員室に用があるからもう行くよ」
彼女の話を途中で遮り、鞄を自分の机において職員室に向かう。少し冷たい言い方になってしまったので、彼女には僕が怒ったように見えたかもしれない。怒っていると言えば大げさだけど、こんなにイライラするのは暑さのせいじゃないことくらい分かっていた。
望んでもいない感情だけが僕の中で生き続ける。
「やっぱり僕は……」
嫌いな言葉だった。
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