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それから僕は彼女とは話す気分になれず、避けてしまっていた。彼女が何度か話しかけようとしてくれていたが、いろんな感情が邪魔をして前みたいに話そうとは思えなかった。目を逸らす度にあの時の困惑したような悲しそうな彼女の顔が頭の中でチラつく。
僕の中で僕がまた死んでいく。
だんだんと彼女が話しかけてくる頻度は減っていき、僕は元通りの生活に戻っていった。
独りで過ごすこの日常が僕にとって当たり前なのだ。彼も問題を聞きに来るときや体育の授業の時ぐらいしか話しかけてこないので、一日も話さない日だってよくある。
どこまでも凍り付いてしまった僕。その氷にお湯をかけようとしてくる彼女こそが変わり者なのだ。
何もかもを終わらせたいと思いながら、何もできずにいる。
人生には生きるか死ぬかの二択しかないんだ。二択しかない選択肢のうち片方が本当に嫌ならば、もう片方を選ぶしかない。たとえもう片方も嫌であったとしても。
人生なんて一生はずれの中からマシな選択肢を選び続けなければいけない。
「最近野口さんと話してないみたいだけど、大丈夫?」
昼休み問題を聞きに来た彼にそう聞かれた。大丈夫という言葉がどういう意味合いを持つのか、僕には分からなかった。
「……大丈夫だよ」
そう言って眼鏡を少し押し上げる。最近は眼鏡生活にも慣れてきたものだ。
「そっか。そういえば最近はずっと眼鏡だね」
「まだコンタクト買ってなくて」
(そもそも僕はなんでコンタクトなんかつけてたんだっけ?)
お金と時間の無駄に他ならないと、今ではつくづく思う。この世界で見たいものなんて存在しないじゃないか。
「クラスマッチの日までには買っておいたほうがいいんじゃないかな。バスケするときに眼鏡は邪魔になるよ」
「……そうだね」
学校が終わると久しぶりに歩いて家まで帰ることにした。暑くなってからは教室で読書をして時間をつぶし、人が少ない時間帯を見計らって電車で帰っていた。夏であろうとなかろうと人が多い電車なんて避けたいものである。
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