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「夏の匂いがする」
電車で帰る時間よりも少し早いので、その分太陽の日差しが突き刺さる。外に出てみて気づく、夏の匂い。この世に存在するいろんなものには匂いがある。
花や木々の匂い、季節の匂い、柔軟剤の匂い、そういうのを敏感に感じるようになった。そんな風たちが運んでくる匂いが僕を苦しめる。あの時あんな匂いがしたなとか、あの人はあんな匂いがしたなとか、思い出したくもない過去を思い出させる。そして僕はいつからか匂いが嫌いになった。
過去ばかり思い出すのは、僕が心を忘れ来てしまったから?
人間は楽しかった記憶よりも辛い記憶の方が残りやすいというが、匂いまで覚えているものなのだろうか。もしもそうだとしたら残酷なものだ。
毎日が充実してる人たちは、辛かった過去なんて思い出さないんだろうな。
『どんな人にもつらい過去の一つや二つあるものだよ。そんな過去を思い出さないように、毎日を一生懸命生きてるだけ』
いつか過去を振り返った時に後悔をしないように。
過去ばかり見ている僕は、一生懸命生きてない僕は、あの日から一歩たりとも前に進めてない。一歩たりとも進んでないはずなのに、辛いことは日々増えていく。その場に立ち尽くしている僕に、後悔は容赦なく降りかかってくる。
このまま潰されて消えてしまえたら楽なのにな。
一生懸命生きるなんて僕には到底できそうにない。一生懸命が何か僕には分からない。
『一生懸命の形なんて人それぞれだよ』
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