22人が本棚に入れています
本棚に追加
***
クラスマッチが近づいてきたある日、月に数回の集会が行われていた。夏の暑さと人口密度の高さによる熱で体育館はサウナと化していた。そんな中で例のごとく長々と話し続ける校長はどうかしてるんじゃないだろうか。せめて誰もが興味をそそられるような話をしてほしい。
窓際の涼しいスペースに座っている教員たちはちゃんと話を聞いているか目を光らせて生徒を見回している。窓から入ってくる貴重な風たちを遮っておいて、暑くてもちゃんと話を聞けと言われても素直に従えるわけがない。広々とスペースを使いやがって。暑いのはみんな同じなんてよく言えたものだ。
「また同じこと言ってるよ」
「暑いから早く終われっての」
あちらこちらから小声で文句が聞こえてくる。
周りの文句通り、校長は相変わらず似たようなことを何度も繰り返している。話している本人ですら話した内容を忘れてるんじゃないのか?
やっと話が終わったかと思ったら、今度は表彰が始まった。もちろんそのほとんどが最近行われた模試の成績優秀者だ。テニス部の何人かが五位とか六位とかで表彰されていたが、どうなんだろうか。
「五位とか六位とかでも表彰されるのか」
「別に表彰するほどでもないよな」
僕が思っていたことをそのまま誰かが話していた。
いや、五位とか六位とかでもすごいんだろうけど、本人たちはその順位で大々的に表彰されてうれしいのか?
(成績を残していない僕が偉そうに言えることではないか)
学校側が評価上げのために無理やり表彰した?
部活動でそこまで好成績を残していないのがこの学校なので、少しでもよく見せようと学校紹介のパンフレットとかに五位だの六位だのが乗ることになるだろう。
勝っても負けても全力でやり切ったのならそれでいいなんて言葉に意味はない。どんな形であれ勝ちは勝ち、負けは負けなのだ。この世界は結果がすべて。それを多くの大人たちが証明してるくせに負けてもいいなんて、次があるなんて無責任すぎる。人は全力でやりきるために努力するわけではない、勝つために努力するのだから。
「結果か……」
「結果がどうかしたの?」
「ん、あ、何でもないよ」
いつの間にか集会も帰りのホームも終わり帰る時間になっていた。どれだけぼけーっとしてたらそうなるんだよ。自分でも呆れてしまう。
「それより部活行かなくていいの?」
「部活は行くけど、ちゃんと野口さんと仲直りするんだよ」
「別に喧嘩してるわけじゃ……」
真面目過ぎる彼のことだから本気で言ってるのだろうが、僕にとっては別にこのままでもよかった。このまま僕は独りに戻っていく。それを僕はずっと望んでいる。
部活に行く彼を見送って、教室で一人考える。
(生きるって何だろう)
生と死の境界線はいったいどこなのか、ずっと考えてきたけど答えは未だ見つかっていない。答えが見つかったらこの生きたくないという気持ちはなくなってくれるのだろうか。この日に日に増えていく消えてなくなりたいという行き場のない気持ちは溶けていくのだろうか。
生きながらに死んでいる僕は一体何なんだろう。
一歩一歩誰かの足音が背後から近づいてくる。僕の命に狙う死神?
無意識に僕の足は自然とどこかに向かっていた。
最初のコメントを投稿しよう!