2.僕と俺

8/14
前へ
/114ページ
次へ
 結局答えは見つからない。    朝、学校に着くと靴箱でバレー部の彼女を見つけた。誰かを待っているのか教室に行こうとしないで、ずっと同じところを行ったり来たりしている。  彼女、五十嵐さんとはあまり話したことはない。なので用事があるのは僕ではないことくらい分かる。 「あ、あの上靴はどうしたの?」  声の方を振り返ると、五十嵐さんが立っていた。僕の方を見て言っているので、間違いなく僕に話しかけている。でも、なんで? 「最近無くなった」  本当のことを言うと、彼女は少しだけ顔を歪める。 「……私のせいかも」 「え?」  言葉の意味がよく分からず彼女に聞き返そうと思った。 「ごめんなさい」  ますます意味が分からず、さっきの言葉も含めて聞き返そうとしたが、彼女はすでに教室の方へと走り去っていた。彼女が僕の上靴をどこかに隠したということだろうか。  何のために?  教室の前では神妙な顔をした平野くんが立っていて、こちらに気付くなりさらに神妙な顔をしてこちらに近づいてくる。彼がこんな顔をするのは珍しい。 「おはよう」 「よ、よう」  歯切れの悪い挨拶。何か隠しているとすぐに分かる。 「教室、入るか?」 「入るけど?」  何の質問?平野くんの横を通って教室に入る。 「……これは?」  花が活けてある花瓶が僕の机の上に置かれていた。その上、汚い字で落書きまでされている。  周りの人に聞いてみるも、誰も何も答えようとしない。靴箱で謝ってきた彼女や平野くんまでもが自分の席について、こちらを見ようともしなかった。どうやらクラス中が無視を決め込んでいるらしい。  ため息も出ない。    花瓶を片付け席に着く。世界の端が少しずつ色を失っていった。
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加