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時間は誰の問題も平等に解決してくれるわけではない。いつだって時間が処理してくれるのは加害者が織りなした時間だけ。関係ないと自己防衛に走った人間すらも許される。被害者側の時間や傷は行き場をなくし、その場に立ち尽くすというのに
何日たっても状況は変わらない。それでも変わらず僕は僕であり続けた。勉強での成績は常に満点で、生活態度も同様。バスケでは主力にまで上り詰めた。
世界が色あせようが関係ない。感情なんかまた失ったとしても関係ない。そんな言葉が頭の中を漂っては、昔の僕に引き戻そうとする。
試合前日の放課後。忘れ物を取りに明かりのついた教室のドアに手をかけると中に誰かいることに気付いた。
「おい、あいつへのいじめまだやんの?」
聞き覚えのある声が聞こえてくる。あいつとは僕のことだろう。
「しかし振られたくらいでよくやるよな、平野も。影山のことが好きだって言われたんだっけ?」
ドアを開けかけていた手が止まる。
「五十嵐のことは関係ねえよ。むかつくじゃんあいつ。なんでもできるからってさ、俺たちを見下してるみたいで」
思考が闇へ闇へと落ちていく。
「お前らもむかつくから参加してるんだろ?」
反射的に教室には入らず、来た道を引き返した。このいじめの主犯は最も信頼していた人間。
(ああ、そうか)
こんなこと、クラス全体を動かせるほどの影響力を持つ人間にしかできない。
僕はまた気づいていないふりをしていた。傷つくのを恐れて、必死に作り上げたものが壊れるのを恐れて。
もうすでにボロボロだったのに?
怒りはない、悲しみもない。ただ心の底から吐き気がするほど気持ち悪い。この世界なんてみんなそんなもんだ。
家に帰った僕はトイレで思いきり吐いた。
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