2.僕と俺

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*** 「おはよう」  久しぶりに学校に登校してきた俺を、クラスのみんなはいろんな顔をして見ている。 「お、おはよう。久しぶりだね」    これまで俺に何があってもさんざん無視していたにも関わらず、なぜ普通に挨拶してるんだ?  一応、周りの目は気にしているらしい。絶対的な存在がいないと、何もできないから仕方ないか。 「あれ?今日は机に花は飾っておかなくていいの?」 「え?」 「毎日毎日、律儀に花を持ってきて飾ってたの、君でしょ?」  隣に座っている彼女に話しかける。 「やめろよ、影山。五十嵐さんは平野に言われて仕方なく……」 「仕方なく?」 「悪いのは全部平野なんだよ。あいつから言われて俺たちは」 どこまでも醜いもんだ。自分たちも参加しといて、今度は責任転嫁で自分たちは何も悪くありません、か。吐き気がするほど気持ち悪い。 「おはよう」 どこまでも空気を読んでくれる奴だ。手間が省けて助かる。 「お前……」 平野はまるで恐ろしいものでも見たかのように目を見開いて固まっている。さて、この次はどんな行動を見せてくれるのだろうか。 「……もう大丈夫なのか?お、お母さんのことは残念だったな」  この期に及んで馴れ馴れしく話しかけてくるとは。母さんのことを配慮するあたり、罪悪感でも生まれたのか?運動ができてみんなの人気とはいえ、相変わらず頭はバカのままか。  そうか。そういえば自分がいじめの主犯格だとばれてないと思いこんでるんだった。 彼の顔を見れば笑ってしまいそうだが、さすがにこの状況では我慢しないと。とりあえず、さっき以上にもっと驚いてもらおうか。 「そういえばさ」 「?」 「もう落書きはしなくてよかったのか?その人達も普通に俺と話してたし」 「え?」 予想通りさっきよりも更に驚いている様子の彼が、次にどんな表情を見せてくれるのか楽しみだ。 「あ、そっか。このまま俺が学校辞めると思ってのか。だったらもう落書きする意味もないもんな。でも残念。今日からは普通に学校来るから、明日からはちゃんと落書きしておけよ?」 楽しみにしてるからさ。 彼はさっきと同じような反応をしていた。目を見開いて固まっていて、何の言葉も発そうとしない。やっぱりバカはどうあってもワンパターンか。 「ち、違う。俺じゃない!」 「俺じゃないってどの話?落書き?それとも物隠し?」 「全部やってねえよ!俺たち友達だろ?」 「そっか。主犯は偉そうに高みの見物ってことか」 「いや……」 「みんなが教えてくれたけど?」  周りを見渡すと批判の目が彼を逃がすことなく捉えている。まるで自分たちは何もしていないとでも言っているみたいだ。  こいつらは傍観者も加害者と同じだと教えられなかったのか?  その日を境に平野と話す奴はいなくなった。前は仲良さそうに話していた奴らも無視を決め込んでいて、クラスの中で彼は孤立している。
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