3.告白と叶わなかった約束

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 男同士、それも友達でもない者同士が何もすることなく向かい合っている状況に、彼女は疑問を持っているのだろう。僕ら二人の顔を交互に見ている。 「空野くん、何してるの?」  彼女はまず僕に質問した。でも残念ながらその質問に対する答えを僕は持ち合わせてはいない。だって僕も呼ばれた理由は分からないから。  答えに困った僕は助けを求めるように彼の顔に視線を送ると、つられて彼女の視線も彼に送られた。  僕と彼女が求めている答え、彼はなんて答えるのだろうか。 「俺が呼んだ」 「ん、何のために?」  そう、そこから先が僕らが知りたいこと。 「……やっぱまた今度」  結局何も答えてはくれなかった彼の背中を二人で見送る。 「何を言うつもりだったんだろうね」 「さあ」  彼の心情は僕には分からない。もしも僕を非難しに来たというのなら、僕はそれを否定しないで受け入れる。自分のした行動を後悔しているからこそ、否定はしない。 「影山くんと仲良かったの?」 「いや、話したことはないよ」  嘘をついた。こんなどうでもいい嘘になんの意味もないと分かっているのに。  彼もまた、クラスマッチのせいで周りとの関係性が変わってしまったのだろうか。違う、正確には僕のせいで。    人間は後悔する。それは選択肢における正解が分からない故に仕方ないことであり、変えることのできない過去。後悔したらもう、後悔する前には戻れない。 後悔しないなんてことできないのだから、ひたすら前に進むしかない。ただただ、後悔するために。    教室に戻ろう。窓から外の世界の景色が見える自分の席に。 「あのさ」  今度は彼女が僕を呼び止めて、何かを言おうとする。いつもの明るい笑顔じゃない。あの日に見た優しくて儚い顔、僕の苦手な君の表情。  すぐに彼女の顔がいつもの笑顔へと切り替わる。 「バスケ部に入らない?」 「え?」 「だってさ、あんなに上手なんだし!影山くんにも勝ったんだからすぐにエースになっちゃうんじゃないかなあ。そしたら今よりもっと強くなるし。ベスト四まで行ったら応援するために学校休めるんだってさ。楽しみだなあ」  捲し立てるように話す彼女はとても楽しそうに見える。僕にもそう見えてほしかった。  無理に作った表情だと、言いたいことはそれではないと僕には分かる。    そんなに辛いのは、君が凝りもせずにずっと僕なんかと関わろうとするからだよ? 「やめとくよ」  僕には分かっているけど、僕にはどうしようもできない。僕にできることと言えば、これ以上君と深くは関わらないようにすることだけ。 「はい、じゃあホームルームを始めます」    照り続ける太陽、鳴りやむことのないセミの鳴き声、苦痛な空間で過ぎていく時間、不必要な人間関係。すべてが僕を不快にさせる。  はやく終わりにしたい。
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