1.天秤と正解のない選択

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「ごめんね。君とよく似た人を知ってたからさ……。自己紹介までしたのに名前を間違えるなんて最低だよね」  赤い顔で笑う彼女は、空で輝く太陽のように明るく、眩しい。その眩しさに僕は思わず目を背けたくなる。 「野口です。野口彩乃(のぐちあやの)。よろしくね」  改めて自己紹介した彼女の名前を覚えていなかった僕も、彼女と同罪で最低なのかもしれない。 「空野です」  僕も彼女と同じように二度目の自己紹介をする。  それにしても誰と間違ったのだろうか。顔や姿が見ているならまだしも、僕のような人間が他に存在するとは思えない。 「野口、何してんの?」 「!」  またもや背筋が伸びる。  僕に話しかけたわけではないとはいえ、さっきから何なんだ。  油断してるときに死角から声をかけるのは本当にやめてほしい。飛んできた声はさっきほど大きい声ではないとはいえ、予想外のことが起きると誰だって驚く。僕に誰かが話しかけてくるなんてとんでもイベントでしかない。  そんな心の中とは裏腹に、驚いたことがばれないよう涼しい顔をしながら振り返ると、高身長のイケメンが立っていた。足がスラっとしている上に長く、あまり隣に並ばないでほしい。   「影山くん」    ……影山くん? 「バスケ部の見学行くんだろ?早く行こう」  ……バスケ部? 「うん。空野くん、また明日ね」  二人の背中を見送りながら一つの思い当たる疑問について考える。  まさか彼のことを僕と間違えたのか?何一つとして似ているところのない僕と彼を、それも知り合いでありながら?  嬉しいというより馬鹿にされた感が否めないけど、別にどうでもいい。一年間は同じクラスだけど、もう彼女と話すこともないだろうから。 (はやく帰ろう)  何気なく窓の外を見ると、満開の桜たちが綺麗で、嬉しそうに微笑んでいるように見えた。  あの時、君が僕に話しかけたのは偶然だったのか、必然だったのかは僕には分からない。これから起きるさまざまなことを考えると、この出会いは運命が定めた筋書き通りだったのかもしれない。
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