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「ごめんね。君とよく似た人を知ってたからさ……。自己紹介までしたのに名前を間違えるなんて最低だよね」
赤い顔で笑う彼女は、空で輝く太陽のように明るく、眩しい。その眩しさに僕は思わず目を背けたくなる。
「野口です。野口彩乃。よろしくね」
改めて自己紹介した彼女の名前を覚えていなかった僕も、彼女と同罪で最低なのかもしれない。
「空野です」
僕も彼女と同じように二度目の自己紹介をする。
それにしても誰と間違ったのだろうか。顔や姿が見ているならまだしも、僕のような人間が他に存在するとは思えない。
「野口、何してんの?」
「!」
またもや背筋が伸びる。
僕に話しかけたわけではないとはいえ、さっきから何なんだ。
油断してるときに死角から声をかけるのは本当にやめてほしい。飛んできた声はさっきほど大きい声ではないとはいえ、予想外のことが起きると誰だって驚く。僕に誰かが話しかけてくるなんてとんでもイベントでしかない。
そんな心の中とは裏腹に、驚いたことがばれないよう涼しい顔をしながら振り返ると、高身長のイケメンが立っていた。足がスラっとしている上に長く、あまり隣に並ばないでほしい。
「影山くん」
……影山くん?
「バスケ部の見学行くんだろ?早く行こう」
……バスケ部?
「うん。空野くん、また明日ね」
二人の背中を見送りながら一つの思い当たる疑問について考える。
まさか彼のことを僕と間違えたのか?何一つとして似ているところのない僕と彼を、それも知り合いでありながら?
嬉しいというより馬鹿にされた感が否めないけど、別にどうでもいい。一年間は同じクラスだけど、もう彼女と話すこともないだろうから。
(はやく帰ろう)
何気なく窓の外を見ると、満開の桜たちが綺麗で、嬉しそうに微笑んでいるように見えた。
あの時、君が僕に話しかけたのは偶然だったのか、必然だったのかは僕には分からない。これから起きるさまざまなことを考えると、この出会いは運命が定めた筋書き通りだったのかもしれない。
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