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今日もつまらない授業が始まる。教科書に書かれていることをなぞるだけの授業は、聞くだけ無駄なようにも思える。教科書を読めばすべて書いてあるし、目新しい発見もなければ興味を引く内容もない。勉強のための勉強に意味なんてない。
周りを見渡せば大半の人が真面目に授業を受けている。この学校なら当然のことかもしれないけど、内容が頭に入ってるかどうかは別だ。
授業なんか聞いていなくてもテスト前に教科書を丸暗記すれば点数は取れる。
「すみません、なぜそうなるんですか?」
一番前の席で千羽鶴の彼が手を挙げて質問している。これも見慣れた光景だ。
授業中、分からないところがあると彼は手を挙げて質問する。彼ほど積極的に授業に参加している人はいない。先生が彼とのやり取りに時間を要してしまうため、授業があまり進まないことも多々ある。
「千羽鶴のやつまた質問してたな」
授業が終わると周りの席からそんな会話が聞こえてくる。
「あいつが質問すると授業が止まって楽だよなー」
どうやら真面目に授業を受けている人ばかりというわけでもないらしい。
自己紹介で唯一僕に衝撃的な情報を教えてくれた、クラスで一番真面目な彼はこのクラスでは少し浮いている。彼が悪いわけではない。ただ、人より真面目過ぎるのだ。
真面目過ぎるがゆえに浮いてしまう。この世界では少数派の方が必ずはじかれる。真面目過ぎる彼は一人だからこそはじかれて、笑いものにされる。多少、第一印象も関係はしている。
自分よりも劣っている誰かを誰もが求め、適当な人に押し付ける。ある種の自己防衛本能が働いているともいえるこの行動は、第三者から見れば滑稽でしかない。
「空野くん、分からない問題があるんだけど……。これ分かる?」
噂をしていればなんとやらだ。千羽鶴の彼が話しかけてくる。どうやら僕も自分と同じ少数派の人間だと気づいたらしい。
「ああ、この問題はこうだと思うよ」
「……なるほど!ありがとう」
聞かれた問題の解き方を教えてあげると、彼はお礼を言って席に戻っていった。そう彼は僕に話しかけてくる二人目のクラスメイトだ。
彼と話すきっかけができたのはある雨の日の体育の授業だった。
外である予定だったはずの体育が、雨が降ったことにより体育館で自由時間になった。みんな仲良い人たちとバスケやバレー、二階で卓球をするなかで、友達のいない僕が隅っこに立っているとバスケットボールを持った彼が話しかけてきた。
「やることないなら、一緒にバスケしない?」
バスケ漫画の主人公の決まり台詞みたいだった。
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