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# BLACK OUT 2
ガッ…
と衝撃が身体に走る…
不意に目を覚ますと冷たいコンクリートの上に居た…あれ?…服…どこ?
…タマキとお揃いにしたかった服は?
…寒い、服を着てない…?
なん…で?
体も痛いし、拳も真っ赤だし…
怠い感じがする。
風邪、ひいちゃう…な…
ぼんやりした視界の中で、
「起きたか」
タマキの声がして、
振り向くと俺は牢獄のような場所に居た。
足が繋がれてる事に今気づく。
……
「これは、罰だ…尚哉が俺を失望させた罰」
タマキが牢獄の扉を開けて
複数人の仲間が入ってくる。
俺が最近体を重ねたりしてるやつら…か…
「雌になれよ尚哉ぁ…」
髪を思いっきり掴まれる。
「俺の咥えてみる?」
タマキに言われて自分のが勃ってる事に気づく…
興奮…してる……のか…?
タマキに…でき…るなら…
「やりた…「失望させるなって言ってんだろうが!!!!」
顔面にもろに蹴りをくらって視界が歪む。
「再起不能にしろ、めちゃくちゃにしていいぞ…お前らが気がすむまで鳴かせてやれ」
タマキの声に男達が歓喜の声をあげて俺の体に触れる。
きもち…わるい…
まだ、まだ
…中に…入れられたこと…無いのに…
でも、タマキをこれ以上失望させたくない。
どうしよう。
「なんでもする!から!見捨てないで…タマキ…タマキ!!」
慌てて叫ぶとまた殴られた。
「見てるから、たくさん鳴けよ」頭を撫でられドキドキしているのがわかる。
俺、どうしちゃったんだろう。
男達が5人がかりで俺の体を触り、
中に指を入れてくる。
我慢しろ、タマキに捨てられたくない。
我慢…我慢だ…
大丈夫だから…
はぁ…
不意に正面を見ると、
ニヤけながらタマキが俺を見つめていた…
目が合う、
あっ…気持ち…いい…かも…
もっと…見てて…
何時間も何時間も男達に挿れられ
中に出され…
鳴き声なのか、泣き声なのか…
叫び続けた…
苦しい……
助けて……
俺は、気づいたら気絶していた…
…
………どれくらい眠っていたのだろう。
暗い暗い部屋、煙たくて喉が渇く。
ベッドの上で俺は布団だけかかった状態で寝ていたようだ、服…着なきゃな…
布団の横に散らばった服を手にすると腰がズキズキと痛む……
……そういえば、俺…やられたんだっけ。
布団を捲ると渇いた精液と血が混ざっている…
最悪だった。
訳もわからず涙が出るし気持ち悪さに吐きそうになる…なに、してんだろう…
「大丈夫か?」
不意に暗闇の中、椅子に縛られてる人物に今気づく…確か…ガミ?だっけ…そう佐上ってやつだ。
「…大丈夫…」
そういって服を着て起きあがろうとするが、
思うように身体が動かない。
辛い…なんか…虚しいのは何でだろう。
「なぁ、これ解ける?」
「え?」
佐上に言われ手を伸ばすと紐まで届く。
解けるかも…ベッドからずり落ちて這っていきながら、結ばれた紐を解く。
解かれた瞬間、佐上が俺の体を支えてくれた。
「さっきから体調悪そうだからさ…トイレ…いく?」
「……うん」
その瞬間何故か涙がとまらなくなった。
なんだろう、なんでだろう。
知らないやつなのに、
こんなあったかいのは久しぶりで苦しい。
「お、おい…」
「どこでもいい、どこでもいいっ…」
俺は訳もわからず佐上に捕まって泣いていた。
困るだろうけど、今なんか苦しくて、どうしようもなくて誰でもいいから縋る気持ちだった。
「…あんなことされたら、そうなるか…」
ぽんぽんと軽く背中を叩いてくれて、
ゆっくり泣くのが止まっていく。
久しぶりにこんな泣いたかも…
やけにスッキリしたのか視界がはっきりしてくる…
不意に携帯が光ってるのを確認して、手を伸ばす。
佐上から離れ、携帯を見るとタマキからだった。
“暫く離れるから佐上をSMOKILL側に引きこめ、ナオヤなら出来るだろ?見捨てられたくないならBLACKOUTの服用も忘れるな”
…と、それだけ書いてあるLINEだった。
…タマキ…
「飲まなきゃ…」
ベッド横にある黒い液体の入った瓶を取り出すと、
佐上が俺の手から瓶を奪って投げた。
「ッ!…何すんだよ!!!」
俺が佐上に掴みかかると、佐上も俺に掴みかかる。
「お前、あの薬が何なのかわかってないのかよ!!!」
「…わ…かってる…」
「だったら何で飲もうとすんだ!…馬鹿かよ」
分かっていた、薬物とかに詳しい訳じゃない…
でも、タマキが前より優しくなったのは俺をもっと求めてくれるのは…これがあるからで…
だからやめたらいけない気がするんだ。
「……これを飲まないと…捨てられるから…」
「…何でそこまでタマキがいいわけ?」
「……」
何で…だっけ…
いきなり言われて混乱した。
俺別に…居なくてもうまく…やれて…
いや、居ないとやっぱりダメなんだって…
改めて会ったら分かったんだ。
生きていて嬉しかったこと、
俺を覚えてくれていたこと、
また仲間として、やりなおせること…
違法であっても、
滑稽な姿に見えても…
俺は…
俺が望んでる…
こういう形でも…いいんだ…
「…飲まなきゃ」
そう言って薬を俺が飲むのを、
佐上は止めなかった。
ただ、物悲しい目をして俺をみていた。
哀れに見える?
…もうわからないんだ、こうすることしか、
この心の中を埋めることが出来ないから。
「……事情は、わかんないよ…お前のさ…」
薬を飲み干した俺に声をかけてきた。
「……こんなとき、春輝なら…なんていうかな…」
「…春輝?」
突然の名前に俺は息が詰まる。
なんか懐かしいな…
同じ名前のやつなんてたくさんいるけど……
「鷹左右…?」
俺が苗字を口にすると佐上の目が開く。
なんかちょっと輝いてるように見えた。
「知り合い??」
「…同じ…クラス…」
急に嬉しそうに椅子に腰をかけた。
「…あんまり話したことないの?」
「…一緒に海には行ったかな」
「割と仲良いじゃん」
そう言われて思い返す、
春輝は特に誰か特定で仲良くするって訳じゃないけど…誰とでも遊んでたから…
俺も単純にその1人ってだけで特別じゃない。
それでも嬉しそうな佐上を俺が不思議そうにみていると、俺と目があって困ったように笑っていた。
「俺もね、お前みたいにヤク中だった……BLACK OUTでイカれてたんだよ」
「……そうなの?」
それって…いけないことなんだろうか…?
「春輝が変えてくれた…、結構苦しかったけど……やっと安定したし…俺1人じゃ何も出来ないって思い込んで群れて生きてたけど…可能性とか信じてみようと思ってさ……俺は俺のために生きれるようになれる気がした…」
「…そう…」
佐上の話は、何となく上部だったからよくわからなかったが春輝が何か関係していて今が幸せってことなんだろうな。
…生きやすそうというか…生き生きしてるのは伝わってくる。
「だからさ、お前も困ってるなら…」
「俺はタマキのところが1番…落ち着く」
佐上の話を遮ると、眉間に皺を寄せて来た。
何が気に入らないんだろうか。
「……裏切られるよ?」
「っ…」
その忠告を聞くと頭が痛くなる。
……もう、ないはず……なんだけど…
最近少しあの時の顔が見え隠れする。
冷たい目…というか…距離を感じる。
メッセージもどこに行くのかまでは教えてくれない…でも望んだらまたあの時みたいになりそうで。
何も出来ずに、無力だった。
俺こんな弱かったっけ………
「……春輝もチームを組んでるの?」
佐上がそこにいるということなんだろうか?
そう聞くと、ため息混じりに椅子にもたれ掛かりながら「だったらいいんだけどね」なんて天井を見ながら言う。
「?」
俺が何も言わずに佐上を見てると向き直って
「チームを組む事は…みんなが望んでる…でも、春輝の口からは“組もうと思ってる”で止まってる」
…不意にそれを聞いて普段の春輝を思い出す。
…トップに立つようなイメージは湧いてこない。
ふわりとゆるりと誰かのそばで笑ってるだけで、
正直…リーダーという雰囲気は一切無かった。
確かにシキコーで一年生からも慕われてるし、
二年生を纏めるのもうまいし、
三年生と当たり障りなく仲良さそうだったし…
……だからこそ、だろうか……
中立の立場とか、2番手とか、そういう立ち位置のイメージしか出来ない。
そう、“組もうと思ってる”の曖昧な言い回しが余計にそう感じた。
…そういうの、男らしくない…って言うか、
…あんまり好きじゃなかった。
…タマキなら、はっきり自分を持っていて、
…そうだよ、春輝がSMOKILLに入れば…
「…みんなで、こっちおいでよ」
「は?」
俺が佐上に言うと怪訝な顔をされた。
「…タマキなら、みんなのこと大切にしてくれるよ?」
「誰が行くかよ!!!」
急にキレるように声を浴びせられる。
「あんな奴、二度と下に就きたくねぇ!!!」
佐上が立ち上がって扉に向かっていくのを見て、
思わず咄嗟に近くにあった鉄パイプを振りかざした。
「イッ…でぇ…」
佐上が頭から血を流して床に転がる…
…ほら、歯向かうからこうなるんだ…
「大丈夫だよ」
俺は注射器を取り出して佐上の腕に刺す
「ってめぇ!!」
暴れそうになるのを無理やり抑え込んだ。
これでいいんだ、タマキ褒めてくれるかな…
きっと佐上だってまた…
タマキと仲良くなれるよ。
「……あー…クソ…力はいらねぇ…」
佐上が気を失っていくのを眺めながら、
もう一本注射をしてベッドに寝かせ血の出た佐上の頭を舐めてみる。
血の味…
タマキの血、どんな味がするかな…
そんなことを考えていると急に目眩がして、
そのまま佐上の横で眠りについた。
言うこと、ちゃんと守ったよ?
だから、
帰ってきたら、
褒めて欲しいなぁ…
……
ガシャンッ…とフェンスに体が打ち付けられる。
今は両腕に抱えた大切なものを守るのに必死だ。
どうにかして逃げるべきかもしれないが、
それよりも大切な事がいくつもある。
約束した。
“大切なものは離さない、守ること”
俺の頭は良くない。
だから、一つの事くらいしか出来ないけど。
自分を信じる。
自信を持っていいって言われた…
だから…
これは離したらいけないんだ…
「なんでそんなもの、守ってんだよザキ。」
タマキの声がして大勢に囲まれているのがわかる。
怖くない。
どれだけ殴られようが、
鍛え上げた肉体には響かない…
「…チャンスをやる」
でも、タマキが向けていたのは銃口だった。
流石に馬鹿でも…当たれば死ぬ…
それぐらいは理解できる。
…前にタマキがアレを人間に当てるとこを見た。
…本気で撃とうとすれば、撃ってくる。
…俺の身体でも貫通するのだろうか。
「お前がいてくれると助かるんだよ」
「…タマキ、俺はもう…騙されない」
タマキは俺と佐上を盾にして逃げた。
その裏切りがずっと目に焼き付いて離れなかった。
あのとき助けてくれたのは、
今本気で守りたい場所と人は、
全部…春輝が作ってくれた…
だから、守るんだ。
「……佐上が死ぬかもよ?いいの?」
「……」
ぎゅっと紙袋を掴む。
どうする…どうしたら…
するとポケットの携帯が震えた。
3コール…
辺りを見回すが誰かいる気配は無い…
でも信じよう…
「春輝との約束は絶対だから、もうタマキのチームには戻らない」
その言葉で銃声が響いた。
俺の横にあったドラム缶に当たったのか、
ドラム缶のほうからガッと鈍い音がする…
「次は当てる…」
タマキがジリジリと寄ってきた。
「俺が死んでも、佐上は絶対助かる」
「は?…なんなんだよ、さっきから…自信ありすぎだろ………弱虫で何にも出来なかったクセに…ウゼェんだよ」
「…俺は変わった」
思い切ってタマキに突進し、拳銃を奪うと周りの男達が驚いて一歩下がった。
「ッテぇなぁ!!!!」
タマキが怒りを露わにして口元の血を拭う。
思わず手に取った拳銃をタマキに向けた。
「はっ…撃てんの?」
「……ッ」
心臓が早く脈を打つ…怖い……
「ザキ!!!!!!」
飛び込むように1人の少年が俺の前に走り込んでくる、雅人!!?…急な事で驚いたが、周りの男達が雅人に注目したおかげで隙が出来た、振り切って走ろうとした瞬間にタマキが突進してき………
…!?!
…フェンスが、無い!!
思わず後ろにすぐ川があって、焦ってタマキを掴もうとしたがタマキは身を翻し俺に一撃蹴りをかます。
「クッソ!!!」
雅人が走ってくるも間に合わず身体が下に降下する…落ちていく視界の中でタマキと雅人が話してるのが見えた…
……
あぁ、佐上…1人にしてごめん.
これは絶対に離さないと袋をぎゅっと抱え川に落ちた。
……
「おい、チビ」
腹が立って、腹が煮え繰り返りそうで、
チビ猿みたいな男の肩を掴もうとしたがスルリと避けられた。
こいつ…早い…
「…えーと、タマキ?だっけ?…これもらっとくな」
「は??」
チビの手にあったのは、カードキーだった。
金庫の鍵?!!!
それが無いと地下の倉庫が開かない…
同じものを作り替えるとしたら時間がかかる…
「っ…はっ…ハハ…凄いなぁチビ…その手グセの悪さ…本当に猿みたいで虫唾が走るよ」
「あんさぁ、チビとか猿とか人がコンプレックスにしてんだから言うなよなぁ…お前は拳銃頼りで弱くて真っ黒だから〜…猿以下だけどな?」
シッシッシと笑いながら、
軽々しくドラム缶の上を渡っていく。
「ブッ殺すぞ、チビ猿」
「やれるもんなら、やってみろよチキン野郎…テメェはピヨピヨ鳴いてばっかのヒヨコって呼んでやるよ…それとも、醜いアヒルの子か?」
「……」
醜い…アヒルの子…だと?
…腹の奥から笑い声が出た…あぁ、そうさ。
俺は醜いよ…だが、アヒルじゃない…魔王だ…
俺が1番強い…俺は絶対なんだよ。
「なぁ、チビ猿…お前も誰かの下についてんのか?金ならやる、俺の下にこい」
「金かぁ、そりぁ魅力的かもね〜」
ほぅ…こいつ、金が欲しいのか…いくらだ?
いくらなら…
「でも、春輝さんの事は裏切れないからさぁ、
バイバイ〜アヒルちゃん♬」
「ッ!」
走り去ろうとするチビに声を荒げる「待て!!!」
「んーー?まだなんかあんの?」
「……春輝って…誰だ」
さっきから、どいつもこいつも…
春輝、春輝と…
やかましい…
何でそんなに信頼する?
俺よりもそいつがいいだと?
通信でナオヤの状況は筒抜けだ…
佐上もナオヤも知る人物のようだが…
名前からして大した事無さそうだしなぁ…
そんなに強いんだろうか、
だとすれば、必ずどっかで聞いてるはず…
でも聞いたことがない。
「チームを組んでるんだろ?…無名か?」
「んーー…“まだ”組んでないよ…でもいつか…この界隈で名を馳せるんじゃない?…だって春輝さんは誰よりもカッコいいもん」
「……なんだよ…それ」
つまらない、つまらない言葉だな。
「……鷹左右春輝、きっとお前にとって最高で最悪な人を敵に回したから後悔するよ」
そう言ってチビ猿が消えていった。
「あの…タマキさん…」
隣にいた雑魚に声をかけられたが、
ワンパンで黙らせた。
ムカつく、ムカつく…死んでくれ……
「鷹左右…春輝……」
そいつを殺せば全員手に入る。
「調べろ」
俺が雑魚どもに声を掛けると、
即座に動き出した。
チームとして組んでいないながら、
そんなに、何がいいんだ…
情報が欲しい…
消えたカードキーのポケットの中を触り、
歯を噛み締めた。
これ以上無くしてたまるか…
俺のテリトリーは、俺のものだ…
邪魔なやつは全員消してやる…
…
……
「ザキちゃん…ザキちゃんーー!!!」
聞き覚えのある声がする。
豪田さんか…?
「よかったわ〜目が覚めたのね!」
いつもお母さんみたいに俺たちの心配をしてくれる“豪ちゃん”と呼ばれる彫り師…
この頭のタトゥーを消すかアレンジするか相談した時、残した方がいいと言ってくれたのは豪田さんだった…俺は気に入ってたんだけど…
ガミが同じは嫌だと言っていて…
喧嘩をした…
話が纏まったけど…
未だにガミは消したいという……
…これを変えてしまったら、
あの時のこと全部がなかった事になる。
…確かにヤク中だった。
…頭がおかしかったのかもしれない。
…でも、あの時のガミも嫌いではなかった…
…、いつも本当に昔から優しいんだ。
消したくない…
「…起きれるか?」
不意に手を伸ばされる。
視界が確かになって目の前に春輝がいるのがわかって涙が溢れた。
「約束、守った…ガミを助けて欲しい…」
手を取るとすごく暖かい。
…体を起こして向き合うと、肩を叩かれた。
「わかってる…さっき雅人の通信機から聞いてたよ…」
それを聞いて少し緊張が走った。
笑っていない。
春輝の目が笑っていない。
でも、何かを考えているような顔だった。
「お前らさぁ…俺の名前出し過ぎ…」
困ったように笑いなら膝っ子蔵あたりをトントンと拳で叩かれた。
…
誰かの下にばかりついてきたせいか、
名前を呼んでしまう気持ちはみんなあるんだろう。
…御守り代わりというのだろうか…
なんと表現したらいいんだろうか…
士気を高める時に、
どうしても…名前を呼びたくなる…
逃げ道なんじゃなくて、
もっと知って欲しい…
タマキみたいなやつでも…
春輝なら…変えてくれるって期待してしまう…
「まぁ、いいんだけどね…やる事かわんねぇからさ…」
徐に俺の手から離れなかった袋を手に取る。
中身を見て不思議そうな顔をしていた。
「……このブランド、ザキが好きだけど着れないって言ってたやつか…買ったんだ?」
「……違う…」
「?」
俺が困ったような顔をしていると、
春輝が喋り出すのを待っていてくれた。
豪田さんが後ろからタオルで体を拭いてくれて、
ようやっと言葉がまとまってくる。
「……ナオヤって呼ばれていた…女の子?…が…タマキってやつのために買った…でも、渡したら…捨てられた…ナオヤが泣いてた…だから…大切なもの、…守ろうと思った。」
うまく伝わるだろうか…
じっと春輝を見てると「ナオヤ」と一言発する。
…目を細めてじっと服を見ていた。
強く紙袋を握っている……
「なぁ、ナオヤって…女の子みたいな感じの男の子だった?」
「……多分…そう…」
最初にぶつかった時は女の子に見えた、
でも…俺たちに向かってくる狂気的な戦い方と振る舞いは男だった…
「……めんどくせぇな」
春輝は、俯きながらそう言った。
“面倒くさい”?どうして?
…俺の頭では理解できなかった。
「……ザキ、まだ動ける?…すぐにでも向かいたい…ガミが心配だし…BLACK OUTは時間勝負なとこあるから」
「いける」
即答だった。
すぐにでも行きたいって自分から言うつもりだったから、その話は寧ろ嬉しい方だ。
「ねぇ、春ちゃん聞いて」
急に豪田さんが立ち上がって、真剣な顔になった。
「アタシね……」
何か言いづらいような口ぶりに春輝が立ち上がって首を傾げていた。
「アタシの大事な人…エリーと結婚するのに海外行きたいの…幸せにしたいと思ってる…だから…」
「わかった」
春輝は嬉しそうに笑って豪田さんの胸のあたりにトンッと拳を当てた。
「豪ちゃん、今まで俺が辛かった時にたくさん支えてくれてありがとう…俺は大丈夫…仲間もいる…安心して海外行ってこいよ…連絡待ってっから」
「春ちゃん……」
豪田さんが見た目に似合わず潤んでるのがわかる。
「…みんな、待ってるわよ…春ちゃん…」
「……わかってるよ」
…そのやりとりが俺には何の話かわからなかったが、次に豪田さんの口から出た言葉で理解する。
「早く纏めてやれよ…」
…そう、みんな待っている…
春輝がチームを組むのか…どうするのか…
このまま中途半端に…するのかもしれないって…
ガミと話していたことがある。
春輝は、何かを悩んでいる。
でも誰かにそれを話すわけじゃない…
聞いても濁される、うまく避けられる。
それをわかってるから待つことしか出来なかった。
豪田さんは、チームの仲間になるものだと思っていたけど、この様子じゃ…
ないのか。
「わかってる…豪ちゃん…もう行くの?」
「えぇ、行くわ…タマキってやつ…あの話し方ムカつくから…春ちゃんの力でやっちゃって!」
おちゃめに豪田さんはウィンクをしてみせる。
腕につけていたブレスレットを外して春輝の手に乗せると「アタシだと思って大事にしてね」とひとことだけ言って歩き出してしまった…
俺は、そのやりとりに
かける言葉もなく見守るしかなかった…
「…大事にするよ…全部さ…行くぞザキ」
「……うん」
頷いて立ち上がると少しだけ身体が痛かったが、
特に問題は、なかった。
春輝は携帯で迅に連絡をとっているようだ。
「雅人がカードキーを持ってそっち向かってる…合理したら絢世つれて俺のとこ来て…他の奴への連絡は任せた」
すぐさま用件だけ伝えると、携帯の電源が切られた。
「…」
俺がそれをじっと見つめていると。
優しく微笑んできた。
…
……
最近、
まとまらない。
…チームを組んでない理由は、
“自由”が好きだからだ。
俺は誰かを縛る事自体、よく思ってない。
俺自身が依存したくないから、
絶対を作りたくなかった。
…それで、本当に良いのか…
…それが望む事か?
…… 何処かに属する事は昔からなかった、
でも強いやつの下にいるのは嫌いじゃなかった、
嫌いじゃなかったのに自分にも出来るような気になったのは、求められるようになってからだ。
はじめは嫌だった。
俺が、それほどまでに誰かに何かを与えたのか?
影響されたやつがそんなに居るのか?
…自分じゃ、自分の事は…
全然、分からなかった…
“やれば出来るのに、どうしてやらないの?”
遠い昔、好きだった女に言われた。
…面倒くさいじゃん…
1番上は、1番上らしくしなきゃいけないって、
そういう固定概念みたいなものが俺は嫌いだった。
成績だって悪くない、
勉強さえすれば点数は採れた。
…やりたくない。
目をつけられるのも面倒だ、
寄ってくるやつも面倒だ、
裏切られたり感情を揺さぶられたり、
全部無関心でいたかった…
だって、望まれてないから。
親父に“ウチのことは何もしなくていい”と言われて、無性に腹が立ったのを今でも忘れない。
期待されたかったんだろうか。
本当は誰かにとっての希望になりたかったんじゃないだろうか…
でも違った…
結局そこに“面倒くさい”って思考が出てきた。
じゃあ、何が欲しかったんだ?
考えて考えて、ひとつ分かったことがある。
“誰よりも強く”なりたかったんだってことに…
弱い自分が嫌いだ、
怖いものなんて、何もない。
1番上に立つのに感情が揺さぶられるようなら、
下のやつも全員崩れる。
自らの“死”さえも喜びと感じるほどに、
強くなりたかった。
ブレたくない、揺れたくない。
自分は自分である為に、
だから1番が嫌いだったんだなぁと思った。
それで道化を演じてきた。
今まで、自分らしくいたいから隠してきた。
1番になるんだったら、
自分の理想に追いつきたかった。
誰かが言った“考え過ぎだ”と…
果たしてそうだろうか…
シンプルに言うのであれば、
誰もが羨む程に完璧を目指すのは悪いことじゃないと俺は思う。
失敗があるのは仕方ねぇよ…
でも、先に進もうとしなければ、
楽しむことさえ無くなる。
そう思えるのは“門脇隼人”の言葉があったからだ…
自分が自分を認められるまでは、
チームは組みたくなかった。
ただ、それだけ…
…今なら、…
…
「ぷぁーーー!生き返ったぁーーー!!」
水を飲み干した雅人くんが盛大に転がる。
「怪我してるね?大丈夫?」
俺が雅人くんの腕に触れようとすると「平気平気!擦り傷!」と言って笑ってみせた。
強い子なんだなぁと感じていると、迅くんが「うーん」と唸りながらパソコンと睨めっこしていた。
迅くんは雅人くんが持ってきたカードキーを片手に、口に飴を放り込んでは噛んでガリガリと音を立て食べていた。
「…難しいの?」
迅くんに尋ねると目を細めてから、
俺の鼻をツンっと突いてきて。
「やぁーー…ぜんっぜん簡単でつまんなかったの」
と口を尖らせる。
それは…悪いことじゃないよね?
「政治家とか警察とか絡んでる割にセキュリティ甘すぎるのどう思う?」
不意に迅くんに言われハッとした。
「罠…とか?」
「……可能性はあるね、それか…こいつがダミーか…」
俺と迅くんが雅人くんをじっと見つめると「俺は言われた通りにしたよ!?」と慌ててくる。
確かに、そうなんだけど…
迅くんはカードキーを天井に向かって光に当てた。
俺もよくやるけど仕掛けとかあるやつって、
何か普通と違うことをしたら見れたりする。
そうこうしていると、迅くんの携帯が鳴る。
「きのこちゃんか…」
そう言って着信に出る。
「はいはい〜…とりあえず忠告ね、車とかバイクで行かない方が良いよ…理由は考えたらすぐわかるでしょ?…じゃあまた後でね」
面倒なのかすぐに着信を切ってまたカードを持って悩んでいた。
普通とは違う感じがするのは、
唯一カードのサイズ感だろうか…?
他と比べたらやや大きい…財布のカードケース入れには入らないというところかな。
「学くん、何か言ってたの?」
「…有賀と一緒にいるってさぁ…」
「…そうなんだ…有賀くんは会ったことないんだよね…」
「へぇ、1番まともだと思うよ」
迅くんは特に顔色も表情も変えずにカードキーを触って遊んでいる。
「……俺たちも行くんだよね!!?」
さっきまで黙っていた雅人くんが迅くんに近づいて目をキラキラとさせていた。
「勿論だよ、絢世くん…薬のストック全部持っていくよ?…確実に使う場面出てくると思うから…11人以上は確実に無いとね」
「わかった…」
あれから少し改良を重ねて、
カプセルのサイズも凝縮して持ちやすくなった方だった…お菓子のタブレットケースのような箱の中に詰めてメンバーに渡せるよう準備してある。
「雅人くん、足速いし薬みんなに渡すの出来る?」
「いけるよ!!」
雅人くんが迅くんの言葉に重なるように即返事をした、俺はそれを聞いて取り敢えず5個は雅人くんへと渡す。
既に春輝くんには渡してあるし…
なんとか全員に渡れば良いな…
乗り込む前に顔合わせが出来ていたら1番なんだけど急を要する感じがしているからそれはないか。
「じゃあ、さっさと行ってきて?携帯のGPSで居場所わかるよね?他に合流出来るメンバーいたら一緒に言って」
「あいあいさー!!」
雅人くんは嬉しげに早足で家を出て行った、
俺が何かを言う前にみんな行動が早くて…
既にチームとして連携している感じがある。
…でも、チームでは…無いって言っていたなぁ…
名前があるわけじゃ無い…
固定されてないからの良さもあるんだろうか。
…でも、せっかくなら…チームとかグループっていう形を取ってもいいんだろうけどなぁ…?
「…一緒に行かなくてよかったの?」
俺が迅くんに聞くと彼は立ち上がりバックにパソコンを詰め服を急に着替え出す…
普段の緩い感じじゃなくピッタリした服装だ…
珍しい。
「絢世くんは僕のサポートして?…1番大事な核に飛び込むから1番危険なんだけど♡」
満面の笑顔で俺に服を渡してくる。
黒っぽくてシンプルだけどちょっと硬めな服…
「着替えるの?」
「うん、着替えて?…また死んでもいいって思うなら着なくていいけど」
迅くんの言葉に服をキュッと掴んだ。
俺は普通にみんなと会話してて居場所を与えられて
求められて、幸せだなって最近思っていた。
みんなの為に死んだらダメだって事…
この薬を今作っているのが俺だから…
「着るよ」
あんまり思ったことが無かった“生きたい”この気持ちが最近出てきた事に不思議な気持ちになっていた。
「…久しぶりに体動かしますかぁ〜…絢世くんのお手並みも拝見だね」
「緊張するなぁ…」
「平気だよ?そんなこと言ってられないだろうから」
「…そんなヤバいの?」
「…」
迅くんと話しながら着替えを終え、
俺が首を傾げると手を振って俺に
「俺たちが10なら、相手は200いるレベルかな」
「うわぁ…」
つまり、一人辺り20人は相手にしなきゃいけないってことか…みんなの強さは知らないけど…
そこそこ重たいし圧倒的に差があるよね…
「大丈夫なの?」
「春輝くんがいるから大丈夫だよ」
迅くんが口にした名前でハッとする。
…実際春輝くんの喧嘩は見たことないんだよなぁ…
見た感じの印象は確かに強そうだって思ってた。
身体に傷があるのは俺みたいな自傷じゃなくて
鍛えているのか…
喧嘩でできたものなのか…
わからないけど…
…迅くんの後ろをついて、
久しぶりの喧嘩とやらに行く…
今まで自分を守ったり、
守ることをやめたり、
中途半端にしてきたけど…
今日は仲間のために力使いたいなぁ。
そんな風に思いながら
早足で街を抜け、夕焼けの空を眺めていた。
……
「痛え…」
頭痛がした、
不意に目が覚めるとナオヤと呼ばれていた男が俺の横で眠っている。
…薬、打たれたな…
自分の手を見つめた…
何ら変わった様子はない、
頭が痛いのと体調が悪いのは
殴られたやつと空腹によるものだろうな。
「…はぁ…」
きっと春輝は今頃怒ってるか…
単独で動いたこと、
BLACK OUTは生産されていた工場を潰したはずだったし…大元の病院さえ一掃された…
なのに、消えない。
まるで掴めない煙のように消えては現れ、
惑わされた…
タマキそっくりだ…
アイツは常に傍観者だった。
喧嘩は強い、強い癖に手を出してこない、
本気にもならない…
雑魚だってわかってると乗ってこないし、
1発で潰しにくる…
…
ただ、それよりも春輝に怒られた方が
何倍も痛い拳が振りかざされんだろうなって思ったら声に出して少し笑ってしまった。
「…なぁに、笑ってんだ」
急に声がしてビクッとなった。
タマキ、いつのまに入ってきてたのか…
思わずナオヤを転がすように起きあがった。
「別に」
俺がいうと頭を強く掴まれる。
「ナオヤとなんかしてたのか?」
「イッ…てぇ…は??なんかって…」
確かにベッドに2人で寝てたら、
そう見えるかもしんねぇけど…
気にするところじゃねぇよな…
「うぜぇな…」
急に俺の服を脱がしてくるものだから焦ってもがいた、何だこいつ…
「やめろ、何もしてねぇよ!!!」
俺の声に気づいたのか、
ナオヤがゆっくりと目を擦りながらこちらを見て
「…え?」と声に出した瞬間顔から血の気が引いていった。
「嫌…っ…あき…アキト…」
「?」
急にナオヤが走り出してトイレに駆け込んで咳き込む声がした…
「思い出したのか…?」
タマキがそう言って自分の口元を撫でて嬉しげにしていた、気味が悪い…
「ガミ…俺にやられろ」
「は?何ッ!」
そのままベッドの上に無理矢理押し付けられ首筋を噛まれた…
痛みに悲痛な声が出てしまう、
痛え…まじで加減がねぇ…
ゾッとして逃げようと背を向けると更にそのまま捕まえられる。
力の差が歴然としていた。
「ナオヤぁ…見ろよ」
タマキが声を上げると、
目が死んだようになっているナオヤがこちらを覗き込んでいた。
「………なんで?」
小さくナオヤが声に出してから、急にこちらに走ってきて俺を殴った。
「ふざけんな!…巫山戯んナッ!!!!!!」
何度も俺に向かって拳を奮ってくる。
「ッ!」
思わずナオヤの腕を掴むが暴れて殴りかかってくるし手が遮られれば足が出る。
必死だった…めちゃくちゃな闘い方…すんなッ
「いいぞ…」
誰かに言ってるわけじゃないだろうタマキの声が俺にはハッキリと聞こえた。
楽しんでやがる。
「なんだよ、何もしてねぇ…だろっ!!!!」
ナオヤを無理矢理突き飛ばすと地面に打ち付けられ、ナオヤが泣き崩れた。
「嫌だぁ…」
そう言って自分の肩を抱きしめて蹲っていた。
「…おい、異常だろ…なんでこんな…ナオヤってやつ精神的にヤバくなってんじゃん!タマキにとっては仲間じゃねぇのかよ」
俺がいうと、
顔色も変えずにタマキはナオヤを蹴飛ばした。
「…別に?…なんかまぁ…遊んでるだけだよ…新しいオモチャが手に入りそうだから…もういらねぇけどな」
そう言って嬉しそうに笑いながら何度もナオヤを蹴り飛ばした。
「ヤメろよ!!!!!」
思わずその足に飛びかかると、
何故かナオヤが俺を突き飛ばしてくる。
「お前!あんなこと言われてんだぞ!?!?…良いのかよ!!!!」
俺が叫ぶと涙を流しながらも、
感情がないように「いいんだ」と一言いった。
「…タマキ?…俺…ちゃんと出来たよ…ガミに注射も打った…だから捨てないで」
そう言ってタマキに頭を下げていた。
それを見て何とも思ってないような顔をしながらナオヤの頭をタマキが撫でて「良い子だなぁ」なんて言うからムカついて仕方ない。
何だよ、何でだよ、
「ばっかじゃねぇの!?!!?」
と俺が続け様に去勢を張ったところで、
1人の見覚えのある男が焦ったように入ってきて
「タマキさん!!!!来ました!!!!鷹左右です!!」
と叫んだ、
俺はそれを聞いて胸の中が熱くなるのを感じる。
…春輝…
急な安心感から膝から落ちる。
「来たな…最高のおもちゃにしてやるよ」
タマキは楽しげに部屋を去っていってナオヤが慌ててタマキを追いかける。
「…ヤジ久しぶり」
俺が部屋に入ってきた男に声をかける。
「裏切り者のガミかよ」
そう言って怪訝な顔をした。
仲間だったし、悪いやつじゃなかった…
でも凄いやつれてるとこを見て、
何か悔しい…
「ヤジ、もうやめようぜ…」
「お前らとは違うんだよ…俺はタマキさんの下でやるべき事がある…あの人以上はいねぇんだよ」
「居るんだよ」
俺が立ち上がってヤジに近づき肩を叩く。
「居るんだ…タマキ以上のやつが…」
「…鷹左右か?」
「そう、俺が1番…尊敬する人」
「ハヤトじゃ無くなったのか」
それを聞いてフッと笑ってしまった。
ちゃんと覚えてくれてんだよな。
「…隼人さんは憧れだな…」
「……そうか」
少し間が空いて俺が歩き出すとヤジが後ろから拳を振りかざしてくる、うまいこと身を転がして避け、壁に手をつく。
「やるのか?」
と俺が聞くとヤジは眉間に皺を寄せて
「お前らが居なくなって…どれだけ大変だったか…」
と目も合わさず言った。
「そもそも裏切ったのは、お前らだろうが」
「違う!…あれは演出のつもりだった…タマキさんは…お前らに居なくなって欲しかったわけじゃないんだよ……」
「何それ…散々酷いことしてきた癖に掌返しするの気持ち悪いよ」
俺の言葉を聞いてヤジは盛大に腹を抱えて笑い出す。
「あーー、全部バレバレじゃん〜…つまんない」
「演技するのが上手いのは俺もザキも近くで見てきたから知ってんだよ」
「あっそう……まぁ今すぐ喧嘩しようって訳じゃない…鷹左右春輝…」
嬉しげに笑いながらリーダーの名を強く呼ぶ
「見たいじゃん?」
そう言って歩き出した…
俺は黙って後ろをついていく…
隙があれば殴ってやりたかったが、
どうやら薬も効いてきたのか怠い。
今は俺も春輝に会いたくて…
ヤジの後ろをついて歩いた。
扉を開けると明るい場所に出る、照明が眩しい。
人間もたくさんいる。
その中央に…
「春輝ーーーー!!!!!」
思わず俺が叫ぶと軽く手を上げてくれる。
手すりを強く掴んで涙が溢れた。
御免…
ただ、そんな気持ちが溢れてきた。
…会いたかった…
何で何だろうな、凄い安心する………
「テメェが、鷹左右春輝か…」
大きな声でタマキが言うと
「ナオヤ、久しぶりだね」
春輝から予想外の優しい第一声の声が響いた。
見ていたメンバー全員が目を点にしただろうか、
空気が変わるのを肌で感じた。
「春輝…」
ナオヤがさっきまで死んだような目だったが少し光を帯びたように感じ、
何処か悲しげな感情の籠った呼び方に聞こえた。
「これ、ナオヤの買ったやつだよね?」
タマキに蹴飛ばされた紙袋をナオヤに見せて首を傾げている。
「てめぇ、無視してんじゃねぇ「この服俺が着ていい?」
タマキが話してる最中でも構わず続ける。
「え?…何で…」
ナオヤが不思議そうに春輝を見つめていると、
紙袋から上着を取り出してサッと袖を通した。
「俺ね、お団子のヒーローだから…次は洋服のヒーローにでもなってみようかなって思ってさ…せっかく心の籠った贈り物を無碍にする悪党を倒しにきたんだけど…いいよね?」
まるで子供に語りかけるように、
春輝が微笑んでいた。
ザキが入らなくてもがいていた黒くて長めのロングのパーカー…
春輝…似合うなぁ…背丈があるからってよりも、
大切にしてくれるだろう言葉が余計にそう見せるんだろうか。
「……ありがとう」
ナオヤが不思議と笑っていた。
あんな笑い方、見たことない…
さっきまでと表情が違う。
その瞬間、タマキがナオヤの顔面に一撃入れる。
「なぁ、何でテメェが喋ってんだよ」
「ご…め…」
ナオヤが頬を触りながらタマキを見つめ、
顔が引き攣っていた。
「…捨てるぞ」
「いやっ…タマキ…ごめん!」
縋るようにナオヤがタマキの服を掴み足に触れようとすると蹴り飛ばされる。
「ッ…!!!」
転がるナオヤを春輝が即座に抱きしめ。
「あぁ、服も同じようにしたってわけか…じゃあ、俺がもらうね?」
急に春輝がナオヤを強く抱きしめタマキを見た。
「何言ってんだ…ナオヤはそれでも俺を選ぶんだよ」
「ふーん…ナオヤ?それでいいの?」
「……」
春輝と向き合うナオヤは、口をパクパクとしながらなんて言ったら良いのかわからないようで、
無理にタマキ側に戻っていく。
「それでいい」
ナオヤの肩をポンポンとタマキが叩き、
自分の後ろに追いやって春輝の前まで来る。
…いよいよ… か?
「鷹左右春輝、第一印象から最悪だなぁ」
「そう?…意外と俺より低くてびっくりした…猫背なんでしょ?ちゃんと胸張って生きたら?」
「…てめぇの見下す態度もその発言も胸糞悪りぃな…」
「別にぃ?見下してないけどね〜…」
春輝が手をパンパンと叩き。
「宣言するよ、俺お前より強いわ…確実に」
「あ?」
「…はじめよっかぁ」
「…てめぇナメやがって…泣かせてやるよ」
タマキの叫ぶような声で一斉に全員が動き出す。
その鼓舞する声と、
反動的に俺も手すりを飛び越え乱闘に潜り込んだ…
…
お気に入りのアイドルの曲を流しながら、
仕事が出来る。
はっきり言って天職じゃないかって思ってた。
春輝にお願いしてトラックを自分らしく派手にしてもらって走ってる。
通称デコトラってやつ。
荷物の配送を仕事にしてるが夜それなりに体力を使うからトレーニングにもなっていた。
…それにしても、
ひかる…
光ってんだよなぁ…
一回も仕事を休んだことはない、
見た目に比べたら真面目だと言われるが、
はっきり言おう、当たり前だ。
仕事をして、推しに貢ぐ。
これが経済を回すと言う事だ。
推しがこの先も活動するために俺は稼いでる。
だが…
横目に見たメッセージ。
“今回のは今までで1番キツい…来れるやつは頼む”
なんて…
春輝にしたら珍しい文だった…
…どうする…
悩みながら高速に乗る手前、横道に逸れる。
ナビを消しLINEをスクロールして“速川”に連絡をした…
スピーカーに変えて警察に電話してるようには感じさせないようにトラックを走らせる。
出てくれよ…
『忠犬?どうした?』
「雷、出たか…お前は行くか?」
『当たり前だろ…』
「わかった、迎えいく」
『ん…』
GPSのアプリに切り替える。
迅が考えた誰がどこにいるのか見ればわかるようになってる便利なアプリだ。
…もう1人…知らない奴がいるな…新人か?
正直最近あんまりあの家に帰ってなかった。
チームとして仲間として、みたいな団結力があるわけでもなかったからな…
ただ、帰る場所がないから帰るだけ。
そんなイメージだった。
寮とかあるなら、そんな感じか?
…春輝には助けてもらったし、
恩返しのような事は、したいと思ってる。
……
でもなんだろうな、求めて来ない。
だからこそ今回が珍しくて…
何か起きるような気がして…
胸騒ぎがした。
…
「なぁなぁ、速川は何か聞いてた?」
「……いや…」
誰かと電話を終えた速川に聞くと唇を噛んでいるのが気になり声をかけた。
2人でゲームセンターで無駄遣いをしながら、
いろんなゲームを楽しんでいたら突然と入ったLINE…
招集ってあんまりないし、ゲームセンターの音が華やかなんだけど空気があんまりよくなくなるのを感じていた。
不意に速川を見ると唇を噛んでる…
そっと速川の口元に手を当てて唇を指でなぞると
ビクッとして肩を震わせ驚いたように俺を見つめてきた。
「何?」
「…その…噛むのは癖?」
唇を噛むの、痛そうだから少し気になってしまった…緊張したりすると噛んじゃうのかな…?
「ん…」
困ったように自分の手で口元を隠していた…
なんだろう…速川と行動を良く一緒にするようになって目につくのは、
少しだけ自虐癖があるように見えるところだった。
変に自分の服を掴んでたりとか、
タバコの本数が多いのとか…
虐められていたことがあると、
少しだけ前に聞いた。
たまに目が合わなかったり、
何かと濁されたりするのは仕方なく思うけど…
もっとこう…
教えて欲しいんだよな……
なんて…
何でそんなこと思ってんだろ…
「こっち向けよ」
「え?」
俺が速川の口に無理矢理飴を放り込もうとすると抵抗しようと後ろに下がったせいで飴が落ちる。
「おい、くれるなら普通に渡せよ」
「……苦手なの?」
「……」
セックスの時は結構乗ってくるし…
キスもできるし…
でもなんだ?そういう事以外は時々避けてくるの…
「あの…さ……虐められてたとき、あったから」
「?」
「無理矢理食わされたりとか…ちょっと苦手」
困ったように笑って言われ、
納得して速川の手を握った。
「ごめん…」
「いや、別に?」
振り解くわけじゃないけど目を合わせてくれない。
……なんかなぁ……
モヤモヤとする。
「あ、忠犬着いたな…行こうぜ」
「……うん」
LINEを見ながら俺の手を離して先を歩く。
……なんか、嫌だな……
理人にもいろいろ誤魔化されて、
話してもらえなかった…
それをまた思い出してた…
足が竦む…
「…封牙?」
「ここで…別にって言ったら…あの時と変わらないんだろうなぁ…」
「?」
速川が不思議そうに俺を見つめていたが、
何かを思ったのか頭を撫でられた。
「えっと……さ……俺あんまり上手くないんだよ…お客さんとかは話せるけど…普通に友達として話すの慣れるまで時間欲しい」
「…別に気にして…ない…訳じゃないけど…無理だなって事があるなら教えて欲しいかな」
「うん…」
嬉しそうに笑って俺に困ったような顔をする。
速川は…ちゃんと向き合ってくれようとするから…
だから俺もちゃんと向き合って話したいんだよな。
隠さないで…
なんて…
駐車場に到着すると、
クラクションが鳴らされた。
鳴った時に速川が手を挙げるも…
いやいや?なんだあれ…
ド派手なトラックに目がチカチカした…
うわぁ、はじめてみた…なんとなくネットで見たことあるんだけどなんて言うんだっけ。
トラックから手を振る人物は黒髪を立ち上げバンダナで上にしっかりあげていた。
怖そうな雰囲気はあるけど……
「忠犬!!」
「雷、ちょっと久しぶりだな」
ハイタッチをするところ…凄い仲良さそう
…というか、速川があんなに声出すの聞いたことないかも。
しかも…
名前呼びなんだなぁ…
…俺には前に名前呼びして欲しくなさそうに言ってきたけど…いるんじゃん…名前呼びしてるやつ…
「そいつ新人?」
チラッと俺をみてくる…目があってハッとした。
俺今どんな顔してただろう、凄い睨んでたかも…
焦って首を振る。
「不成封牙って言うんだよ…まぁ、詳しくは…後で話す…封牙、乗れよ」
「あ…うん…」
速川は即座にトラックの助手席側に行くので追いかけ後ろに乗ろうとすると手を取られる。
「前に3人乗れるから来いよ」
「あ、う…うん!」
なんか…嬉しそうに見えるからか、俺までちょっと口元がニヤけてた。
トラックの助手席に座るとちょっと狭いけど前に3人座れるようになっていて、
真ん中に椅子があるのか…凄い不思議な感じ…
っていうかアイドルの曲がガンガンかかってるのが凄い気になって仕方がなかった。
「封牙、俺は狗丸忠太…あだ名で忠犬って言われてんだ…犬好きだから全然忠犬って呼んでくれていい…よろしくな」
優しく俺に手を伸ばしてくれるから手を取る。
凄く大きくて硬い…強そうだな…
犬好きなら悪いヤツでは無いんだろうけど…
「よろしく、忠犬。」
俺がぐっと手を握ると、速川が目の前で繋ぐ俺たちの手に自分の手を重ねた。
「行こうぜ」
そう言った速川の言葉で3人手を離し、
トラックが走り出した。
「雷と仲良いんだな?…コイツとっつきにくいだろ?」
「おい、忠犬。」
俺に声をかけてくれる…優しいお兄さんって感じじゃん…思った感じとは違うかも。
って言うか…
「とっつきにくいっていうか…面白いかなぁ……寧ろ…2人仲良いね?」
「あぁ、幼馴染だからな」
「…え?」
それを聞いてびっくりする、歳上かと思ったけど…
まぁ、春輝もそうか…大人びてんなぁ。
それに比べると俺って結構子供っぽいのかな…
「その話は良いだろ…つか、音もっと小さくしろよ」
「いやせっかくの喧嘩だし気合い入れていこうぜ?」
「忠犬はアイドル好きなの?」
俺が聞いた瞬間に肩を忠犬にガッと掴まれる。
「わかるのか!封牙!お前いいやつだな!!!」
「うぉいっ!ちゃんとハンドル持てよッ!!!」
速川の悲痛な叫びとトラックが急に左右に揺れ、
俺も体が打ち付けられる。
左側にぎゅっと寄ったせいで速川を抱きしめる形となってしまったが…悪くないのでそのまま包み込むように抱きしめる。
「悪い悪い」
忠犬は笑いながらハンドルを片手で操作して嬉しげだった。
「ってぇ…封牙痛く無かった?」
「…別に平気…」
「……は、離していいよ…もう//」
顔は見えないが俺の手を解こうとするので敢えてしっかりと掴む。
「おい、封牙」
「なに?お前ら付き合ってんの?」
忠犬から意外な言葉が出て、何故か速川と2人
目があって顔が赤くなる。
「いや、そんなんじゃねぇよ…な?」
速川が俺に同意をしてきて「ちょっと揶揄いたくなってね」なんて忠犬に言うと、
なるほど?と声にした後急に…
「お前らどこまでやったの?」
なんて表情も変えずに言ってくるから速川が忠犬を軽く蹴り飛ばした。
運転手にそれはまずいだろと速川を取り押さえる。
「お前なぁ!!!…」
「はは、そう言う仲なんだろ?」
わかってんのか…
忠犬は速川のことがよくわかってるから…
大体の事を察してくれんだ。
…なんか、いいな…
仲良くなりたい。
「そうだよ、速川とよく寝てんだ」
俺が満面の笑みで忠犬に言うと嬉しげに忠犬がクラクションを鳴らした。
「封牙いいね、素直なヤツ好きだわ…俺お前らのこと応援すんな?」
「っ…おぃ…ちが…忠犬!!……」
速川が何かを言おうとしていたが、
口籠る。
「…はぁ、まぁいいよもう…さっさと飛ばして…春輝のとこ行こう」
そうか、
さっきまで忘れてた…速川って春輝のこと好きなんだよな…
急に心がキュッと閉まるような感じがした。
春輝…に勝てる気はしない。
…腕がゾクッとしてくる…噛まれたところを思い出すたびに身体が熱くなる。
…なんだよ、勝つって何に?
…ていうか…理人のこともさ、
春輝が全部知ってたんだもんな…
…凄いよな…
…幼馴染の俺でも、教えてくれなかったこと…
俺が知らないこと…
「封牙?大丈夫か?」
速川に頬を撫でられ我に帰る。
「あ、…ちょっと…考えごと」
笑って誤魔化すと速川に引っ張られ耳打ちで
「全部終わったら2人で抜け出そう」と言われ
ドキッとした。
…そう…いうことだよな?
…離れる速川が優しく笑うから俺は顔がまた赤くなってしまったように思う。
耳が熱い…髪長かった時なら隠せたのに、
髪を切った事を今更悔いた……
好きかもしれないなんて速川に言ってから、
自覚したせいか落ち着かないし…
最近ホテルも中々行けてなかったというか…
ホテルにいっても全然やらないで終わってばかりで寝付けない日が続いていた。
たわいもない話をそのあと3人でしているうちに、
車通りが少ない道に出る。
森の間にできた道を派手なトラックで抜けると、
目の前に鬱蒼とした建物が現れた。
「ここだな」
速川の言葉にトラックをあまり目立たない隅に停めて降りる。
目立たないようにと言っても、
見た目が派手だから目立つな。
…
「封牙ーーーー!速川ーーーー!」
急に雅人の声が2階の窓から響く。
「忠犬もいんだろ!早く来いよ!死ぬーーー!」
雅人の声をきっかけに俺たち3人が中に乗り込む。
黒い集団の数は、まるで蟻の大群のようだった。
いやいや、これは…
「やべぇな」
忠犬が身構えて言う。
本当にヤバいってか、来てよかった。
俺と忠犬を置いて速川が前からからくるヤツらに飛び込み蹴りを喰らわす。
細いくせに凄い音が響くんだよな…
打撃で言うと俺よりもしっかり当たってる音。
見ていて気持ちがいい。
「俺も、行くぜ」
「ッよっし!!」
忠犬に言われ気合いを入れ直す。
…誰かのために、戦う喧嘩……
すげぇ久しぶりな気がする。
…春輝と理人を助けに行った時以来か…
…ギュッと握り拳を作って胸の前に当て俺は群れの中に走り込んだ。
…
空を見上げると意外と月が大きく見えた。
綺麗だなぁ。
歩き続けて裏路地に入るとマンホールを開けて地下に入る…まるで映画のスパイ作戦みたい。
この状況を楽しんでしまってる自分が居た。
「さて、絢世くんにはトレーニングでもしてもらおうか」
地下に入ると迅君は持ってきた大きめの荷物のケースを開ける。
クッション材がほとんどだったからかそれほど大きいものは入っていない。
「トレーニング?」
迅君は急に俺の腕を掴んで自分の近くに引き寄せると服のポケットに何かを仕込んでいく。
なんだろう…ちょっと擽ったい。
「手伝った方がいい?」
俺がケースの中の部品のようなものに触れようとすると手を掴まれた。
「何処に何があるか僕が知ってなきゃ意味ないから絢世くんは何もしないでね♡」
「…わ、わかった」
思ったより手の力が強いのと,
服に追加されていく度に思った。
重い。
予想以上に重たいやつもある。
これ、ここに来るまで1人で持ってきてたんだ…
普段引きこもりなのかと思ってたけど…
こういう場面で違って見える。
じっと迅君を見ていると、
目があって緊張が走ったせいか目を逸らす。
「意地悪してるわけじゃないよ?…どんな時でも僕は優位でありたいんだよね」
「…優位?」
「余裕が欲しいってことかな」
“できたよ”と言われてハッとする。
ちょっと嵩張ってるけど…動けないことはない…
迅くんは残りのものを手早く自分の服のポケットに詰めたりリュックの中に入れていく。
…この服、ワザとポケットが多く作られてるんだ…
「まぁ、割とすぐ使うことになる筈だから、絢世君の分はすぐ軽くなるよ」
「そうなの?」
一体どんな装置なんだろう…
不意にさっき聞いていた余裕が欲しいという言葉、
寧ろ迅くんに余裕がなかったことなんてあるんだろうか。
「…余裕がなかったことあるの?」
不意に聞いてみると人差し指を一本俺に向けて。
「たった一回ね!」
と言い捨てると、すぐさまリュックを弄り出す。
「春輝くんを…ドン底に突き落とすつもりだったんだよね…」
「え?」
なんともないように喋り出すけど、
2人の間に何があったのか気になった。
…学君の話だと訳ありの人が集まってるって事なんだよね…迅君の話を春輝くんからファミレスで聞いたことがある。
“”迅は可哀想なやつなんだけど…まぁ…本人の口からは言わないだろうから言っちゃうけどさ?
…
影武者的な感じなんだよ。
迅って2人存在すんの、
俺たちの前にいるのはテレビとか出てるやつとは別。
テレビで出てるのは偽物の迅かな。
複雑な話だったし、
出会いが最悪だったけど…
つか、ある意味あいつもストーカーだったけどね“”
その話を深く追求はしなかった。
2人存在する…か…
双子とかでは無いのかな…
…だったら、
同じ顔を二つ持つ意味ってなんだろう。
…わからないことばかりで思考が追いつかない。
「じゃあ行こうか」
そう言われて大きめのケースは放置したまま歩き出す…2人ともリュックに変えて両手がガラ空きになったけどこれは中々に体が重い。
急に迅くんは俺の服をめくって腹筋に触れてきた。
「…あ〜…ヤバそうだけど?頑張ってね?」
「えっ…なに?」
慌てて後ろに下がるとクスクスと笑われて、
何が面白いのかわからなかったが、
歩き出したので後ろからついていこうとすると立ち止まって、
「あ…リュックの中にこの機械が入ってるんだけど」
と手のひらサイズの細長いペンのような機械を見せてくる。
「こうやって壁にくっつけられるから10メートル置きに付けながら着いてきて」
「…それは…なに?」
「これは…」
と一瞬口を開きそうだったが「秘密かな」と隠されてしまった。
仲良くなろうとしても難しい感じのタイプって感じがするなぁ…
近づいてきたり急に突き放されたり。
何か…あるのかな?
「教えてくれなきゃ、つけるのやめようかなぁ〜」
なんて言ってみると迅くんは驚いたように俺を見ていた。
あんまりそういう風に言われることないのかな?
と思った瞬間急に胸ぐらを掴まれて壁に押しやられた。
ドッと肩が壁に当たると、思わぬ衝撃に「痛っ」と声が出てしまった。
凄く痛いわけじゃないけど掴み方が強くてビックリした。
「…教えてあげるよ」
急にペンを俺の首筋にすっとなぞるように当てて、
ゆっくり胸元のシャツの上にカチリと機械を付ける。
「これは受信機、誰かがこれの近くに通るとすぐわかる…僕や絢世くんは除外してある……探知するのは人間だけで動物はわからないよ」
「……そ…うなんだ?」
するりとリュックを下ろされたと思ったら足技を引っかけられ地面に体が打ち付けられる。
さっき着ていた上着を簡単に奪われて中のTシャツ一枚になって仰向けに倒れ込むと、
迅くんが被さるように俺の上に座り込んで動けなくなった。
「もう一つ」
俺の服についたペンを撫でて満面の笑みで
「僕がパソコンのとあるボタンを押せば爆発するんだよね」
「え?」
「押してあげようか」
ドキドキと心臓の音が早まる。
いや、本気でやるわけじゃないだろうけど。
本気でやりかねないし。
でも…
「…今爆発したら…迅くんも巻き込まれちゃうよ?」
「別にいいよ」
「?」
困ったように笑って言うのでその表情を珍しく感じた。
「なんてね、ほら…立ちなよ…いこう」
服についた機械をサッと取り手を引っ張られて無理矢理立たされた。
上着を着てリュックを背負ったところで前を歩き出してしまった迅君の後ろを足速に追いかけていく。
今のは…本気だった?
「……」
無言のまま言われた通りに10メートルくらいの感覚で壁に機械をつけていく。
小さなタブレットを操作しながら迅くんがルートを選んでいるのか時々立ち止まったりしながらも進んでいく。
「絢世くんは、未だに死にたくなったりするの?」
「……なんで…?」
そんなことを聞くんだろうか…
「結局家から逃げられた訳じゃないでしょ?…どうしようもなく…消えたくならない?」
「…たまにあるかな…」
「家って面倒だよね」
「?」
前を歩いているから表情とかは全然わからなかったけど何かを訴えてるような言葉に聞こえた。
近づけそうな気がするなぁ…
「迅君の家も…いろいろ有るの?」
「…まぁ、そんなとこ?」
「……じゃあ一緒に爆発してみよっか」
俺が適当に言った言葉だったが、ピタリと歩くのを迅くんは止めて俺の方を振り向いた。
「それ?本気で言ってる?」
今までになく真面目なトーンで言われて、
喉が渇くような感じがした。
答えはYESかNOしかないような…
そんな気にさせる。
逃げ道が無い。
「…いいよ、期待してないから」
え?…その言葉で迅君が求めてるものが、
わかってしまったように感じた…
心の何処かで誰かを信頼しきれてないのかな…?
でも、…そういう人が欲しい…のかな?
「期待してないなら話さないと思うなぁ」
俺が急に反抗的になって迅君を煽ってみると、
少しだけ間があったが、不意に笑い出した。
怒るわけでもなくちょっと嬉しそうに笑ってる?
「そうだね、ちょっと期待した」
「…俺に?」
「…そうだよ?…だってさ…」
迅くんはリュックを下ろして、自分のジャケットを脱ぎ捨て服をめくった。
思わずゾッとする。
…傷…だらけ…
俺以上に、痛々しくて最近できたばかりのような痣まであった…
…以前聞いていた傷がある人って迅君だったのか…
「……僕が怖い?」
「…全然…怖く無いよ?…家族からされたの?」
思わず声が震えた。
同じような境遇なのかな…心臓が痛い。
締め付けられるような感覚。
こんなの…はじめて…
「そんな顔しないでよ」
平気な顔して上着を着る迅君を思わず抱きしめてしまった。
「頑張ってるね…迅君も耐えてるんだね…知らなくてごめんねっ…」
声が上ずるし涙が不意に溢れたけど、
「ばっかじゃ無いの?」
と迅君が俺を引き離す。
至って真面目な声で、俺の頭を撫でながら。
「僕は平気、絢世君がどうなのか聞きたかっただけだよ…その様子だったらまだ辛いんじゃ無い?」
そう言われて、急に顔が熱くなっていく。
思わず口元を手で押さえた。
なんか恥ずかしい。
「そんなこと…」
と言おうとした瞬間ぎゅっと抱きしめられ言葉を失った。
「…頑張ったね…たくさん耐えてきたんだ?…甘えていいよ」
何も声が出ないけど、思わず迅くんの背中に手を伸ばして身を預けようとした瞬間。
「なんてね♡」
と離れていくから一歩前に出て抱きつく。
「どっちなの?」
俺が不意に迅くんをじっと見つめると、
驚いた顔をしている。
予想しなかったんだろうか…中途半端に甘やかされても嫌だなぁ…、とか、…
ちょっと欲深くなっていた。
知りたいのかも、迅君のこと。
「はぁ……生きて帰ったら甘やかしてあげる」
「どうやって甘やかすの?」
「うーん、秘密かな」
笑いながら俺から離れて、
迅くんは上を見上げる…
適当な障害物を登って工具で上に穴を開けて、
俺に登ってくるように指示をした。
目にも留まらぬ速さで凄いなぁと感心しながら
リュックに手を入れた瞬間、
さっきまで壁につけてきた機械がもう無い。
「無くなっちゃったけど…この先は?付けなくていいの?」
「想定内だよ、早く来て」
サッと手を伸ばされて、その手を掴むと上に潜り込めた…小さな扉のようなものに手をかけ、そっと開ける。
さっきとは違った薄暗い部屋だ。
扉の向こう側にあったのは…
注射と薬の山…こんなに…たくさん…
「ビンゴだったね」
迅君は口元をバンダナで覆う。
俺も流石に空気の悪さを感じた…窓が一つも無い所為なのもあるけど異常な甘い香り。
「…さて、これか…」
迅君はカードキーを取り出して金庫の前に立つ。
「…あーあ…嫌な感じ。」
迅君に言われて金庫の鍵の位置を見ると差し込み口は二つ…番号を入れる所があった。
「アクセスするから待ってて」
そう言って金庫のカードキーの隙間に何か細い線を入れてタブレットで繋いで操作していた。
その瞬間、部屋の扉が勢いよく開く。
「早く無い?」
迅君は残念そうに肩をすくめた。
「てめぇら何してんだ!」
「やっちまうぞ!」
黒服の男達は狂ったように俺たちに向かって走り込んでくる。
「迅くん?」
「仕方ないね…やっちゃおっか♡」
2人ともリュックを置き、
向かってくる男達の中に飛び込んだーーー…
…
…
……
痛い…苦しい…
目眩がする…
いろんな人の声が遠くて…
俺何でこんな…
乱闘する声が響いてきて、
戦わなきゃいけない気がするけど、
全然動けなくて…
タマキの役に立たなきゃいけないのに…
ッア…
口から血が溢れた。
肺か何かが痛い…
もうダメ…
思わず膝から崩れ落ちそうになると、
大きな腕が俺を包み込んでくれた。
…… 誰?
「ナオヤ…って言うんだよね?…パーカーごめん」
ぼんやりした視界の中で野太い男の声がした。
「これを飲んで」
口に何かを含まされる。
お腹が空いてるから何でもいい…
口に運ばれた薬と水が美味しく感じる。
…あれ?
急に視界がクリアになってきた。
「…えっと…あのショッピングモールにいた?」
「八崎…大和」
「ザキ…」
あれだ、佐上と一緒にいたやつ…
「パーカー…大切な人にプレゼントだった?…と…思ったから」
「う…ん…」
着てくれなかったけど、
期待して馬鹿みたいに浮かれてた。
普段なら絶対しない筈なのに…
え?しない…
…したかったのかな…
頭の中が混乱していた。
急に思考がはっきりしてきて余計に気持ちが追いつかない。
「ウッゼェな!!!避けてんじゃねぇよ!!!」
その声にビクッと身体が震えた。
タマキ??!
…怒ってる声をあまり聞いたりした事がない…
いつも余裕な表情で喧嘩だって負け無しで…
力だって誰よりもあって…
「無駄打ちばっかだね?…当たらないと体力ばっか減っちゃうよ?」
いつもみたいに柔かに笑って春輝が言う。
…そう、いつもクラスでみんなと話してるのと同じような態度。
…優勢に立ってるように見える…けど…
特に手を加えてない?…
「逃げ腰の癖に、言えた口かぁ?」
タマキがニヤリと笑いながら言うと、
春輝が手をグーパーと動かしながら。
「そんな欲しいなら,お前が今までヤッてきた分全部俺が返してやるよ…」
「は?」
とタマキの声がするよりも早く拳が顔面にヒットした…
うわっ…
思った以上に重たい音がして顔面の骨が砕けてないか心配になる。
「…チッ」
タマキが地面に座り込んで下を俯きながら唾を吐き捨てた。
「…立てよ」
春輝の言葉に、声をあげて急に狂ったようにタマキは笑い出した。
「予想以上だなぁ…お前…俺と手を組まないか?…金ならいくらッーーー
話してる最中にも関わらず立ち上がろうとするタマキの鳩尾に蹴りを入れる。
「交渉してる場合じゃねぇだろ、本気出せよクソ野郎」
「いいねぇ…嫌いじゃねぇ!!!!!」
楽しそうにまたタマキは春輝へと拳を振り翳しはじめた。
見たことない…
見たことない顔…
楽しそうな声…
俺のことすら忘れてる?
なんか…嫌だ…
ザキを突き飛ばして走り出していた。
春輝に向かって拳を振りかざそうとすると、
それに気づいたタマキが俺に蹴りを入れた。
痛い… …
「なぁにしてんだ、ナオヤ」
冷たい声…なんで?
「タマキを助け…「…助けるだと?俺が負けてるように見えたのかぁ?」
違う…違う…
見て欲しかっただけだ…
「もういらねぇよ」
急に突き放されたような言葉にポケットに入ってた薬を夢中で腕に打ち込んだ。
死にたい…もう嫌だ
「おい、ナオヤッ」
春輝の声がした瞬間、タマキが「余所見してんじゃねぇ」と1発春輝の背中に蹴りを入れた
「…クッソ…!!!…つぅか、喧嘩の時にこんなガチャガチャにピアスつけてんじゃねぇっ!よ!」
春輝がタマキに掴みかかり
地面に体を打ち付けタマキの耳のピアスに触れた。
「そんなにたくさんつけてると…千切られるよ?」
「っァァアッ!!!」
ブチッっと音がしてゾッとした…
血…血が…
タマキ…っ…
耳についたピアスを思いっきり引きちぎる春輝は、
無表情だった。
何を考えてるのか、全然わからない。
怖いけど、なんだろう…
……奇麗 ?
「お前が散々やってきたこと…身をもって思い知れ」
「くっそ…」
タマキが耳を押さえながら震えてるように見えた…
やばい…凄いドキドキしてる…
あんなタマキを見た事がないから…かな…
俺捨てられたんだよね?
…じゃあ…もう…いいよね?
我慢してきたけど、
もういい?
最後のBLACK OUTだ…
一本、腕に入れようとしたら八崎に止められる。
腕の力が強い…な…
ショッピングモールでもそうだったけど…
こいつ…邪魔!!!!!
注射器を地面に落として左のポケットにあった拳銃を取り出してザギに向けた。
「ウザイ、消えて…」
俺が引き金を引くと違う衝撃が体に重なった…
八崎と俺の間に…
「ガミ!」
八崎の声がして、ぼたぼたと俺に血が垂れてきた。
「いてぇな…最悪…」
その言葉と共に佐上が俺の前で膝から崩れた。
どこを撃った?
どこに当たった?
血が流れるのを見て俺は身体が震えた、
佐上がタマキと…やってたのをみたから?
なんだろう、この状況…あれに…似てる…
ほら…あの時……
ズキンズキンと頭の中が痛みだす。
俺、タマキに2回も身体売らされたんだな…
初めてじゃなかった…
覚えてる、
あんなに血が出てたのは、
俺じゃなかった…
昔も…中にたくさん出されてたのに忘れてた。
気持ち悪い男の手…
セックスなんて…気持ちいいものじゃない。
タマキに触れて欲しかった…
それだけだったのに。
男抱けるなら俺じゃないのは何でなんだろう…
俺のことがそんなに嫌い?
暁斗を抱いたのは何で?
佐上の方がいいの?
何が違った?
ねぇ…
全部嘘なの?
どうして騙すの…
このままじゃ… … 嫌いになる
嫌い。
「ナオヤ!!!」
春輝の声にハッとした…
拳銃を持つ手が震える、俺…やばい…
タマキに向かって突き付けてる?
……引き金を引いて…それで?
…俺も死のう…
「いい加減にしろよ、余所見してんじゃねぇ…春輝」
タマキが耳を押さえながら声にする。
「お前さ、ナオヤがどうして苦しんでんのかワカンねぇのかよ…」
「何で俺がそんなこと考えなきゃなんねぇんだ…」
「………お前死ぬよ?」
春輝が冷たく言うと、タマキは笑い出した。
馬鹿にしてる、馬鹿にしてるんだ。
春輝のことも、俺のことも、
ここにいる全員を…
「どうでもいい」
急に声のトーンが落ちて、一言、呟く。
「もう、どうでもいい…」
「は?」
タマキは春輝にゆっくり近づいて、
頬を撫でる。
2人の距離が近過ぎて俺の視界からは唇が重なるように見え…
て…
そんなこと、タマキは…する…の?
嫌…
引き金を引いて、引いて、引いてる…のに…
カスッ…カスッと音がするだけだった。
殺したい、
殺しちゃいたい、
全員死んで欲しい,
悔しい、
俺は、
「死のう…」
苦しみから解放されたくて、
プツンっと、糸が切れるような音がして…
俺の思考は途絶えた………
……
顔を近づけるタマキが、耳元で言った。
「どうしようもなく、楽しいんだよ」
そう言って笑っていた。
香りや雰囲気でタマキだけはBLACK OUTを服用してない事がわかる。
ただ楽しんでるだけ。
「昔の俺みたいだな…」
タマキと目を合わさず小さく溢した。
中学時代、俺は“楽しければ”それだけでよかった。
リンチはしたことなかったけれど…
再起不能にするまで相手を痛めつけて…
殺すまで行かなくても相手が骨折なんて当たり前だった。
殴るのも蹴るのも、重ねて行く度に慣れて行く。
気に入らなくて車上荒らしもした。
高級車のベンツを殴ったりな…
京極ゆかりと出会って、
あるとき、ゆかりの祖父…師匠に出会って、
俺は馬鹿みたいに体力を使ったり、
適当に喧嘩していたことに気付く。
はじめて …
女に負けた。
毎日虐められていた女は、
喧嘩をしたら馬鹿みたいに強かった。
隙がない、女性らしく身体が柔らかいからか、
動きも無駄が無い。
しなやかだった。
手加減したら、ボコボコにされて、
ムカついたから全力で殴りかかったのに
当たっても弾かれて意味がない。
無敵だった。
なりたかった、…
そんな風に。
俺の悪いところ全部治したかった。
自分の悪いところを治して行くと、
相手の悪いところが見えるようになっていく。
勝てない人って言ったらもう1人最近いたっけな…
まぁ、だんだんと見えなくなって行く視界に、
限界も感じたりする。
だけど、だから?
全部諦めるのは失ってからでもいい。
…
声を張り上げてナオヤがタマキと俺に飛び込んできた…気絶…させるか?
動きが雑になっていて、
すぐにでも捕まえられる…が…
タマキはナオヤに向かって蹴りを1発入れる。
それと同時に「つまんない奴」と吐き捨てた。
コイツ…ナオヤに何かを求めてるよな…?
俺が無視をしたり、パーカーを着たりした時とか、
急に笑い出した時も違和感があった。
ナオヤに依存してるように見えたから。
多分本心とやってること,
真逆なんじゃねぇかな…
…自分が一番よく知る人物に似ていたから…
…側から見れば滑稽だった…
佐上の血が広がってるのを八崎が必死に止血してるのをみて早いところ終わらせたいのに、
どうも終わりが見えない。
タマキは俺にやられてるように見えて、
馬鹿みたいに体力があった。
打撃も速度も変わらねぇ…
多少は削られてるのかと思えば、
全部フリだった。
騙すのがうまい。
だから気を抜くと食われそうで、
ナオヤと2人相手にするのは武が悪い…な…
でも…、ナオヤが俺だけじゃなくタマキに向かっていってるのを見るとそれは無いから少し安心していた。
……ただ、苦しそうで見てらんないな……
ナオヤ…
タマキの事好きだったんじゃねぇか?
憶測でしかないし、
ナオヤと話したことなんてあんまりない、
でも、それだけ信じようとして俺の言葉を聞かないようにして…突き放されたら怒って…
……
正直、タマキって馬鹿だろ。
俺をやりたいなら、ナオヤを利用すれば良かっただろうし。
もっと頭のいいやつかと思ったけど、
自分で自分の首を絞めてんじゃねぇか?
…それとも、それが全部フリ…で、
まだなんかあんのか…?
読めない状況に動くのをやめた。
「ナオヤ、あの時みたいに俺を刺すか?」
タマキの言葉が聞こえてハッと顔を上げると、
ナオヤの手にナイフがあった。
いや、やべぇだろ…
「こんな傷作りやがったもんなぁ?」
タマキが服をめくり腹部を見せていて、驚く…
縫い後…痛々しい程に目立っていた…
「……わかんない…わ…かんな…い」
ナオヤは泣きながらナイフをタマキに向けていた。
何とも痛々しい状況だ…
なのに、何でか…笑ってやがる。
頭のネジが飛んでんのか?
それとも…そういう行動が…
タマキにとっての欲か…
「ほら、まだあるぞ…ナオヤぁ…」
ガシャンっと小さなケースから粉が入った袋が散ってナオヤが手に取ろうとするのを見て、
一か八かの賭けに出ることにした。
俺の読みがあってればタマキは逆上する筈だから。
怒りを買う…
自分の口に絢世が作ってくれた薬を含ませ、
ナオヤの伸ばした手を引っ張りぐっと抱きしめて逃さないようにする…
驚いて俺を見てくれたから丁度いい。
ナイフをたたき落として地面に転がるのと同時ぐらいか、深く深く口付けた。
「!?」
ナオヤもだが、タマキも…2人してまるで時が止まったように…意表をつかれた猫みたいにしていた。
ぐっと舌をナオヤの舌に絡ませて薬を飲ませる。
思ったより抵抗しないな?
…
「っ…はぅ…春っ……」
最早喋らせないように,
薬を飲ませた後もキスは続けた。
チラッと目線だけタマキに合わせると口元を押さえていて表情は読めないが動揺してる。
「……大丈夫?」
俺がナオヤを抱いたまま聞くと、
目を潤ませて、じっと俺を見るだけだった。
……思考が止まっちゃったか?
その瞬間、タマキから目を離したせいか、
タマキが薬を飲んでいて驚いた。
逆上以上の行動にどう向かって来るか分からずナオヤを後ろに追いやった。
未だにナオヤは放心状態だし大丈夫だろう。
その瞬間、急な爆発音が響く。
思わず身体が斜めになるぐらいには建物が揺れ…
いや…建物…半分崩れてねぇか???
煙たい…
目が霞む…
咳き込んでると正面から胸ぐらを掴まれた。
「なぁ、面白いよお前」
タマキが俺の腕に注射針を刺そうとするのをもがいて制御した。
「ナオヤの事,すげぇ好きじゃん?素直になったら?」
俺がそう言うと今までになく笑い出して、
「好きでも嫌いでもねぇな、ただのオモチャだよ」
と言った。
嘘だろ。
ナオヤを引き金に表情が変わる。
おもちゃっていうなら、
もっと感情的にならねぇだろ普通。
…わかって…ねぇな…
「俺はむしろお前に興味がある…鷹左右春輝……この爆発は何だ?…お前の仕業か?…演出が派手だなぁ…嫌いじゃねぇよ……なぁ、俺の方に来いって悪くしないから」
すっごい…、
話し方もそうなんだけど…
昔の俺を思い出すからムカムカしてくる…
ちげぇ、感情的になるな。
そしたらタマキのおもうツボだろ。
と思った瞬間ゴホッとタマキは口から血を流した。
薬の副作用か…そろそろ効いて…
「タマキさん!やばいっす!サツが…」
と1人走ってきた男をタマキが殴って気絶させた。
「どうでもいいっつってんだろ…全員引っ込んでろ!!!!!」
…嫌な…感じ…
これだけは使いたくなかったけど…
警察は面倒くせぇからな…
絢世、お前が作ってくれた最終兵器。
使わせてもらうわ…
内ポケットに入れていたダーツ針を取り出して5本同時に投げると、急だったからかタマキは身動きが取れず5本全部的になって当たった。
「俺天才か?」
思わず綺麗に決まって、こんな状況なのに
馬鹿みたいな発言をしてしまった。
「…っ…なん…だこれ…」
タマキが矢を一つ一つ抜いて行くが、
立っていられないのか床に身体が落ちていった。
「睡眠薬か…痺れるやつか?だったかなぁ…まぁ…残念、警察来るし…また今度ね」
俺がゆっくりとタマキに近づいてしゃがみ込むと、
虫の息だが俺を睨みつけていた。
もう喋れないか?
…
「これは、お前のものだから大事にしろよ」
パーカーを上に被せ、近くにいた知らない男に声をかけた。
「さっさと連れてけ」
「…は、はぃ…」
数人がタマキをおぶる形で逃げて行く…
なんだかんだ慕われてるんだな…
全員が逃げ出すとかじゃないあたりを見ると、
まだ全然タマキの本質は見えてきそうになかった。
ふと後ろを見ると、佐上は立ち上がっていた。
「大丈夫だったのか!」
俺が駆け寄ると八崎が嬉しそうにしている。
「おぶるよ」
そう言って佐上をおんぶしようとするが「いらない」と言って逃げようとする。
「いや、おぶってもらえ…早く逃げろ…警察に捕まんのはマジで御免だし…全員と合流してさっさといけ…」
俺の緊迫する言葉を聞いて、
2人が頷く。
言うこと聞いてくれるんだよな…助かる…
「春輝は?」
佐上に聞かれ携帯を取り出す。
迅がどうなったのかが知りたいな……
「あれ?ナオヤは?」
不意に放心状態だったナオヤが気になった。
走って逃げれる状況じゃねぇよな…
「…!!アレ!」
八崎が指を指す先に、
階段を駆け上がる姿が見えた。
やばい予感しかしない。
…
「俺が行く、お前らは早く逃げろ!!!!」
慌てて言い捨てると一気に階段を駆け上がった、
こういうときに身長があって良かったと思う。
「……ナオヤ、死ぬなよ?」
…
もし、やりなおせるなら…
生まれた時からやりなおしたい…
好きになる人も、
嫌いになる人も、
全部、
全部、
変えたい…
苦しかったり,
悲しかったり
嬉しかったり
楽しかったり
全部もう…
やめたい。
…感情なんか,いらないのに。
屋上なのか、屋根の上なのか足場の悪い外に出た。
階段を必死に駆け上がって外に出ると,
空がぼんやり紫だ。
…もうすぐ陽が登る…
その前に終わらせよう。
遠くからサイレンの音がして、
火事が起きてることに気づいた,
少し離れているけど…近くだ…
…俺は弟を殺した、
…大切な人を殺そうとした、
…人間の道徳から外れてる…
刑務所に入ってもおかしくないよな…
麻薬もやった…
たくさんのやつを中毒にして、
溺れさせて?
それで、何がよかった?
何が得られた?
欲しかったものってなんだっけ…
結局は…
… “裏切り” だけだった。
たくさん積み上げたのに、
タマキの為に頑張ったのに、
最期は…そうなるのか…
俺も馬鹿だなぁ…
なんでまた引っかかってんのかな…
見返りを求めるくらいなら、
何も求めないままでいればよかったのにさ…
不意に唇に触れる。
…春輝に飲まされた…アレ…何だったんだろう…
目が覚めるような感覚だった。
意識がはっきりして来た時に、
まさかキスをしてる相手が春輝だって思わなくて
思考が追いつかないのに……
「…気持ち…よかった…」
柔らかくて、優しくて、
春輝だからかな…あったかかった…
ジリジリと屋根の先に足を滑らせ降りていると、
ガタンっと音がして振り向いた。
「ナオヤ!!!!」
…何回…呼ぶんだよ…
何回も聞こえた、薬が回ってても、
呼んでくれる声がして…意識が帰ってきてた。
…不思議なんだよね…
「…来ないでね…」
俺が笑いながら春輝に言うがお構いなしに近づいてきて慌てて下がった。
「来るなって言ってんだろ!!!」
思わず声が荒くなる…
「行くよ」
でも構わずこっちに来るから、
身動きが取れない。
…なんで?
「間に合った…」
俺の手をとって、
困った顔で優しく笑いかけてくれる。
…
「……どうして…?」
「死にたい気持ちはさ、わかるから…」
両手をそっと取られ、ゆっくりと春輝側に引き戻された…さっきまで…飛び降りようとしてたのに…
「ナオヤ?苦しいか?」
「っ…」
思わず震えが止まらなかった、
身体中から疲れが出たのか、
熱でも出てるのか…
苦しくて
吐き出したくて,
どうしようもなかった、
「ッ…死にたい!離せよ!!!」
…
「おいで」
春輝に優しく言われて、
訳もわからず咄嗟に腕の中に飛び込んだ。
…震えが収まってくる…
怖かった…?
死ぬのが、怖かった……
別に未練なんか無いはずなのに。
感情がぐちゃぐちゃで、
言ってることと、やってることがめちゃくちゃで、
「…ナオヤの事、全然知らないからさ…大口叩けないんだけど話そう…死ぬのは、それからでもいい?」
無言のままでいる俺を抱きしめながら、
春輝はポンポンと背中を叩いてくれた。
死ぬことが悪いとは言ってこない…
死んでもいいって選択を与えてくれてる。
…怖い。
春輝に優しくされて、
急に怖くなる。
裏切られたら?
俺を騙そうとしてる?
利用したいのかな…
「話していい?」
「うん」
俺が頷くと、ため息を吐いてから,
ゆっくりと自分の事を話してくれた。
“片目が見えていないこと”
「俺ね、去年…無理して病院いかなくてさ…目、半分見えなくなったの…でもまぁ、実は元から悪かったし…いいんだけどね?」
春輝は絵を描いたりするが好きだったっけ…
…目が見えなくなれば喧嘩もできないか…
キツいだろうなぁ…
全部失明したら耐えられるんだろうか。
…でも今片目が見えてなくて、
あれだけの力があるんだ…?
春輝って…
人知れず努力したりしてたの…かな……
“自殺未遂をした”
「家がさぁ…圧力かけて来て……どうしようもなく何もできなかった自分に腹が立った時があんのね……手柄を横取りされたような気分でさぁ…死んだら全部…辞められる気がしてた…できなかったけどね」
…家?
春輝の家庭ってなんかあるのかな…
…自分に腹が立つ…
…確かに俺も嫌になった…な…
役に立てない事とか、
求めてもらえるような人間になれなかったとか、
……
…死んだら全部辞められないのかな?
…なんで、春輝は死ななかったんだろう…
“学校にはもう行かない”
「志騎高ってさ…優しくない?…平和で…あったかくて…嫌いじゃないけど俺やっぱり浮いてた…あのまま居られるなら居ようかとも思ったけどさ…違う奴らと話してたら俺の居場所は俺が作らなきゃいけないように思った…」
…… 居場所 …?
“大切な居場所を守る為に生きる”
「結局、自分のためなんだけどさ……
俺の作る場所に仲間がいて、
そんな場所に俺が居て…
頼ったり頼られたりさ…
悩んだら一緒に悩んで…
自分に価値があるんだなって最近は感じてさ」
「……仲間?」
「…そう、仲間…ナオヤも信じてたんだろ?…タマキってヤツをさ…」
「………」
言われて視線が泳いだ。
信じたかった。
信じてたよ。
…でも名前を聞いても苦しくて…
あれ?
「春輝…パーカーは?」
「タマキに返してきたよ…俺がもらったんだから好きにしていいよね」
「…えっ?」
受け取ってくれたの…かな…?
途中から逃げ出したせいで記憶が曖昧だ。
でも、春輝がここにいるなら…
タマキ…負けたのか?
…
不意に目の前にあった春輝の手を触ってみる。
…豆…だらけだな…硬い…
タマキの手に触れた事ないけど。
俺今まで何してたんだろう。
雑魚ばっかり相手にしてたのかな…
…
「……ナオヤ…?」
「ん?」
手を触ってると,その手を握られた。
「俺と来いよ…後悔させねぇから……怖いかもしれないけど絶対裏切らねぇからさ」
……どう…しよう……
「怖い?」
「うん…」
不意に春輝が俺の前に向き直った。
「ナオヤが欲しいものって…何?…心配なことって何?おしえて…」
真っ直ぐに俺を見てくれる。
目が離せなくて…
ドキドキと心臓が早く動いた…
……
どうしようもなく、
今何も無いことの虚しさに張り裂けそうになる、
声が…出ない…
……不意に、
薬を飲まされた時のことを思い出した、
…キスしたいな…
「……声が…出ない…うまく喋れなくて…春輝っ…」
まるで子供みたいに肩に触れてから背中に手を回して、春輝にキスをする。
ぎゅっと抱きしめてくれて…
そのまま受け入るように深くキスをしてくれた。
優しいなぁ…
思わず涙が出て止まらなかった。
俺、嫌なヤツだな…
優しさを利用してるみたいで…
「ナオヤはタマキが好き?」
「えっ…」
キスをやめ、急に聞かれて戸惑った。
でも…少し落ち着いてきたから今なら話せそう。
「好きだったけど…今は…好きじゃないかな…」
「憎い?」
「……少し…だけ…」
俺は嘘をついた、憎い。
憎いよ。
でも俺が自分でしたことだから…
タマキが好きでやったことだから…
憎いなんて言えない。
「ナオヤはどうしたい?…俺が守ってやるよ…だから…俺の傍に居てくんない?」
「…どうして?……そこまでしてくれるの?」
優し過ぎて理由が知りたかった。
また騙されるのはゴメンだ…
「…俺今は昔みたいに嘘つくのやめたからハッキリ言うね…」
すると、再び深くキスをされる。
さっきみたいに優しくなくて…
思わずリップ音が響いて聞こえてゾクゾクした。
悪く…ない…
「俺ね…好きとか嫌いとか無くて…平気でこれくらいは出来るよ…? でも今は、やらなくなってたんだよね…周りを泣かせてばっかだったからやめた」
「…えっ、俺にして大丈夫だったの?」
「……もう、我慢するのやめるわ…俺別に…どっちでもいいし……なんでだと思う?」
急に聞かれて、分からず首を傾げると
春輝が屋根の先に移動していく、
それと一緒に朝日が登ってきて綺麗で、
暖かい光が一面を照らして…
逆光で目が開かなくなりそうだった。
「…いつも、死にたくて仕方ねぇからさ…」
笑ってる…けど、
本気の言葉なんだろうな…
なんて思ってるよりも先に身体が動いてて、
わけもわからずに春輝に抱きついていた。
なんか嫌だ…死んでほしくない。
「…一緒に死んでみる?」
「…一緒に?」
「そう、一緒に」
思わず春輝の服をぎゅっと握った。
「…い…いよ?」
死のうと思ってたし…
いいのかな…
俺で…
一緒にいけるなら…
嬉しい…
…?
嬉しいのか?
…
「じゃあ、目瞑って」
春輝に言われて目を閉じると、
体が浮遊するような状況にドキッとしたが、
強く抱きしめてくれてるし、
…怖くない…
ドンッ
と音がして体に少し衝撃がくる。
「ナイス着地ーーー!」
「流石、春輝くんだなぁ」
「今の動画にしとけば良かったんじゃね?」
なんて声が聞こえてきた。
不意に目を開けると春輝が優しく笑いながら俺を見ていた。
「今までのナオヤは今死んだから、これからは自由だよ?…またやり直そう」
そう言われて上を見上げる…
凄い高い位置から飛び降りたんだ…
打ちどころ悪かったら死んでる…
目、開けといても良かったかも、なんて。
やり直す…か…
「やば、警察集まってきてるから早く出すぞ!!」
「急げ忠犬」
「わかってんよ!」
その声と共にトラックが走り出した,
荷台の上に居たせいで体が左右に振られて、
その方が死にそうになった。
「ちょっと!何人かいるんだから優しくしてよっ!!!」
きのこ頭の少年が騒いでいるが、
速度は変わらなかった。
「よし、ザキやろうぜ」
「うん」
佐上と八崎がタマキのチームSMOKILLの旗を燃やしていた。
「どっから持ってきたんだよ」
春輝が呆れ気味に言うと、
「チーム潰したらフラッグ燃やすってのカッコ良くない?」
佐上が怪我をしていながらも嬉しそうに言う。
腕痛そうだよな…あやまらなきゃ…
「燃やして灰になる…か…」
春輝は、小さく言ってから俺の肩を抱いたまま声を上げた。
「SMOKILLは、まだ潰れてねぇ…薬の出所もわかってねぇ……今回こんなに怪我したヤツばっかで…危いことに巻き込んで……昔だったらこういうの大っ嫌いだったんだけど…」
春輝は立ち上がって、
「マジで、お前らありがとう…着いてきてくれて、俺を信じてくれてありがとう」
と頭を下げた。
不意に周りを見たら泣いてる奴もいて、
何故か俺まで泣きそうになった。
「燃やして灰になって、死んでまた復活して、この世界で未練ばっかの俺たちだから…
“GHOST” 」
春輝が燃えて最後消えていくSMOKILLのフラッグを空に投げて。
「俺たちのチーム名だ、みんな死ぬ気で着いてこいよ」
と言った瞬間に歓声が響く。
車が道に出てから少し失速していたので、
もう振り落とされる事はなく、
みんなの声だけが騒がしくトラックの荷台が賑やかだった。
人数は…これだけ?なんだろうか…
チームってもっと大きそうだけど…
いや…
はじまりか…
タマキだって、SMOKILLだって最初からたくさん居たわけじゃない…
GHOSTは…どこまでいくのかな…
「ナオヤは考えといて、来るなら大歓迎だよ」
「…わかった…」
春輝に言われた瞬間、ガクッと体の力が抜けて、
世界が真っ白になった。
安心した?…疲れた?
…もしかして…
死ぬのかな…
……
…
優しい香りがする…
布団の中か…
いい香りだ…
なんか、まだ体が怠い…
死んでなかった。
包帯だらけ…
此処どこだろう…
とりあえず体を起こして、
扉をちょっとだけ開ける。
キッチン?
のようなところに、風呂上がりなのか上半身は着てなくてタオルだけ首に掛けながら缶チューハイ片手に春輝が携帯を触っていた。
ガラス張りの空、
夜の街がキラキラと輝いてるのが見える……
……タトゥー…あんなにあったのか……
……凄い、綺麗…
背中に羽があるの、知らなかった…
筋肉のつき方…綺麗だなぁ…
触れたい…
思わず出て行こうとしたが、
春輝が何処かに歩いて行ってしまってそれを追いかけてみる。
部屋を出ると大豪邸のような…
部屋がたくさんある家に驚いた。
二階に上がっていく?
ゆっくりと後ろからついていくと、
二階の1番奥の部屋に入って行ってしまった。
どうしよう…
ゆっくりドアノブに触れて開けると、
思いっきり着替え中だった。
「あっご…め」
俺が焦って扉を閉めるよりも早く「えっち♡」なんて笑いながらも着替えを進め、近づいてきた。
「話しかけてくれればいいのに、おはよう」
頭を撫でられて、
タマキのことを思い出してしまっていた。
嬉しい。
「…友達でしょ?」
と春輝に言われ何故か虚しくなる自分が嫌だ…
わかってる、タマキだって同じだ。
俺ってそんなに誰かに依存しちゃう…のかな…
「そうだね」
笑って誤魔化したせいか、春輝が首を傾げながら俺をじっと見てきた。
「…お腹すいた?飲み物とか、適当に下にあるし…風呂も入れるけど」
と言われて首を横に振った。
なんと無くまだ眠りたい。
「寝たい…かな」
そうひとこと言うと「そっか、おやすみ」だけ言って離れてしまいそうだったので服の端を掴んだ。
「一緒に寝たい…」
俺が言うと、「じゃあ…おいで」と
優しく部屋に入れてくれた。
香水?お香なのか…甘くて優しい香りがする、
春輝らしいなぁ…
「飲み物あるから喉乾いたら勝手に飲んでいいよ」
小さな冷蔵庫があって、そこからお茶を出してくれたのでゆっくり飲み、
「ありがとう、生き返るね」
と言ってから春輝のベットに先に寝っ転がった。
嫌かな?こういうの…
ベットに座って、
春輝は俺の頭を優しく撫でてくれる。
「気持ちいい」
「そっか」
もっと触れて欲しくて春輝の胸の中に飛び込んで擦り寄ってみる。
「少しは元気出たか?…また明日起きたら…いろいろ話そう?…おやすみ」
抱きしめたまま、布団に春輝が横たわりながら言う
眠いんだろうなぁ…
「…ありがとう……おやすみ…」
抱き抱えられた状態で、
春輝が目を瞑るのをじっと見つめた…
もっと…
話したい…
欲しかったな…
そっと布団を引っ張って春輝に掛けながら、
頬に触れる
……キスしていいかな?
ゆっくりと顔を近づけて、
軽くキスをすると、
ぎゅっと体を引き寄せてくれる。
頭を撫でる形で、
深く口付けをしてから。
2人で笑っていた。
…幸せ…
今は、溺れていたい…
辛いことを忘れていくように、
その優しさに今は身を寄せていた…
…ーーーー
朝の光がパチパチとまるで花火のように
目の前でキラキラしていた。
ふわっと何かが過ぎったように思う。
天使のお迎えでも来たんだろうか…
そっと隣に目をやるとナオヤか…
そういえば、夜一緒に寝たんだったな。
携帯を真剣に見てるナオヤに
「おはよう…何見てんの?」
と声をかけると驚いてギョッとこっちを見つめてから、
「あっ……おはよう…これ…」
と携帯の画面を向けて来た、
そういえばロック画面ずっと変えてなかった…
大分前にナオヤが描いてくれた似顔絵…
「待ち受けか…可愛いからずっと変えてない」
「……そっか…嬉しい」
嬉しく微笑む顔が、
今まで辛かった事がたくさんあっただろうその事を忘れてるかのように優しく見えた。
…あんなこと、されて…
そんな顔できるんだもんな…
無慈悲の愛か…
「ナオヤ?」
「ん?」
そっと引き寄せて優しくキスをする。
昔の俺とは違う意味でのキスだった。
…ナオヤに対しての敬意だ。
…お前は凄いよ。
…たくさんの愛で誰かを満たそうとした、
でも、裏切られたんだな…
辛かったろうに…
“お疲れ様”
そんな気持ちだった。
唖然とするナオヤを見てると、
やっぱり…キスされるの好きなんだろうな?
目つきが変わる…
ふわふわな綿飴みたいに…
とろけそうな顔をしてる。
「ご飯食べよう腹減った」
俺が立ち上がり部屋を出て行こうとするのを
「い!行く!//」
と慌ててナオヤがついて来た…
まだ正式に加入ってわけじゃないけど…
ナオヤが来たら12人か…
横目に隣についてくるナオヤを見た。
悪くないな…
……
もう俺は間違えない…この先、
俺が俺であるために…
… さぁ、GHOSTをはじめようか …
END
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