03 ライバル

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 養護施設「おとぎの森」に、双子の姉弟が引き取られたのは8年前。  両親を相次いで亡くし、父親と院長が知り合いだったことから引き取られた姉弟。冷静沈着で無口な弟とは特別仲良くはなかったが、男勝りで正義感の強い姉――碧水 聖夜とは特段仲が悪かった。  ひまわり色の髪は短くボサボサで、サッカーのプレースタイルも普段の行動も、まるでイノシシのように猪突猛進で粗暴。上品さを好む白峰とはとにかく相性が悪かった。しかも最悪なことに、初めて恋した人の心を奪ったのも……その野生児だった。  こんな野生児なんかに、絶対負けてなるものか――そうしてサッカーにおいても恋路においても、何かある毎に張り合ってきた。  聖夜だけ里親に引き取られ離れ離れになっても、サッカーの練習も乙女磨きも手を抜かず続けてきた。また会えた時、負けないために。  そして2年後。再会と勝負が叶うかと思いきや――向かっていた里親の車が交通事故に遭ったと、報せを受けた。  人前で泣きはしなかったが、輝夜は顔を歪ませて俯いていた。灰路もショックを受け、普段泣き虫な赤鬼はよりわんわん泣いた。白峰もそれなりにショックを受けていたし怒りも湧いたが……  一番辛かったのは、泣き崩れ聖夜の名前を呼ぶ緑川の背中を見たことだった。  今でも忘れられない、酷い雨の日の出来事。  遺体は見つからなかったが、院長を始め「おとぎの森」の子供たちのほとんどが聖夜は死んだと思ってやまなかった。だが白峰は、緑川や輝夜と同様に聖夜の生存を信じていた。  と言っても、あくまで緑川に寄り添いたい想いからであり、実際のところ希望はあまり持っていなかった。  仮に運良く生きているとしても、もう自分たちの前に現れて欲しくない。恋した人を、想い合っていた人を……泣かせる真似をしたのだから。  しかし現実というものは非情で、ままならないものらしい。  先日――合宿初日、聖夜と瓜二つの“天馬 聖夜”と出会った。もし生きていたら、まさにあんな感じだっただろうというくらいに、そっくりだった。性格は少し違っていたが、口調もサッカーのプレースタイルもほぼ同じで、“もし他人なら”不気味に感じるほどまでに……  しかし白峰は、とうに気付いていた。  そっくりなんてものではない。  “天馬 聖夜”は、死んだと思われていた“碧水 聖夜”本人であることを――心底憎むくらいに大嫌いだからこそ、気付けたのである。
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