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01 頭痛
「聖夜?」
ハッ――と我に返る。百合子が心配そうに、こちらを覗いていた。
「具合悪いの?」
「――いいえ、大丈夫です。ちょっと、ボーッとしてしまって……」
「そう? なら良いけど……無理しないでね」
「はい、そうします」
そう答えた後、聖夜は用意してくれたベーコンエッグとトーストをかき込み、牛乳で喉に流し込んだ。
「今日からでしょ? サッカー部の合同合宿。しかも都会の学校と」
「はい、気が引き締まりますよ」
堅い表情は変わらない。しかし明らかに、生き生きとしている。サッカーのことはよく解らなかったが、聖夜を唯一そうさせるスポーツを、百合子は好ましく思っていた。
「それじゃあ、百合子さん。行って来ます」
「いってらっしゃい」
「お盆には帰って来ますので」
「えぇ、ご馳走用意して待ってるからね」
小さく、会釈をしてから、聖夜は玄関を出た。
ドアが閉まると同時に、百合子は寂しく溜息をこぼして。
「“百合子さん”、かぁ……」
まだ、“お母さん”って呼んではくれないのね。
致し方ない想いと、そろそろ呼んで欲しいという拭えない想いが混ざり合う中。聖夜が“初めて”我が家に来た日のこと、そして“初めて会った日”のことを思い出す。
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