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「なぁ天馬、もしかして具合悪い? “例の頭痛”?」
不本意ながらも1年の頃からの付き合いである、この男――鷲羽 太陽の勘の鋭さは、本当に嫌になる。
「……来たばっかの時よりは、とりあえずマシだ」
「なら良いけど……無理すんなよ」
「大丈夫だ、これくらいで倒れたりするかよ」
と答えたものの、可能性としてないとは言い切れないのもまた事実。
来た時よりはマシというのは本当だが。細く、長く、ジワジワと――そんな状態が続いていて、何だか少し気持ち悪い感じだった。
今日はやけに長い……いつもなら、数分ジッとしていれば大半は治まるのだが。
「おっ、アレかな」
鷲羽と共に目を向ければ、赤いシャープなラインの入った白いバスが1台、駐車場に停まっていた。
「間違いないだろう、バスに“CHIHARA”って書いてある」
「お前……片目包帯してんのに、よく見えるな」
「視力には自信があるからな」
そんな他愛ない話をし合いながら、バスに近付いて行く。その間にもバスから選手と思わしき、地原中学校の生徒たちが次々と降りていた。
点呼が取り終わったのを見計らい、
「すみませーん、地原中学校の人たちですかぁー?」
率先して鷲羽から声をかけた。
「あっはい、そーですー。地原中学校 サッカー部、全員おりますー」
「美空中学校サッカー部、鷲羽 太陽です。今日から夏休みの間の1ヶ月間、よろしくお願いします」
「こちらこそお出迎え、おおきに。俺は地原中学校 サッカー部 キャプテン、灰路 零や。つってもアルプス出身やないで」
冗談を言う目の前の男に、聖夜は眉をしかめる。ギャグがつまらないからではない。
灰路 零という名前と、その見た目。何処かで見たような……
と思った瞬間、頭痛が強くなり身体がよろめいた。
「おい天馬っ、大丈夫か?」
「っ……へい、き、だ……」
よろめく身体を何とか踏ん張り立たせたところ。灰路にも顔を覗き込まれ、
「何や、アンタ具合悪いん――!?」
瞬間、彼は目を丸くして、固まってしまった。
「あの……なにか?」
「あ。すまんすまん、何でもあらへん。ちょっと知り合いに似とったモンで」
「そう、ですか……」
まるで幽霊を見たような表情。そんなに似ているのかと、この時の聖夜はそれくらいにしか思わなかった。そして気付かないまま、鷲羽と共に地原中学校のサッカー部 部員たちを案内した。
自分を深く見つめる人物たちが、灰路の他にもいることを……
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