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「なぁ、話の続き。聞いても良いか?」
「えっ、う、うん。良いよ」
「お前、さっき“死んだかもしれない”って言ってたが……どういうことなんだ?」
「――実は、遺体が見つかってないんだ」
緑川の話によると、その幼馴染は8歳の頃に里親に引き取られ、緑川たちとは離れ離れになってしまったらしい。2年後に再会する予定だったが……向かっている最中、交通事故に遭った。
「里親の遺体は見つかったんだけど、幼馴染の遺体だけはどうしても見つからなくて。院長は死んだって諦めてるけど、僕たちはそう思ってない。あの子は……“聖夜”は、きっと何処かで生きているって信じてるんだ」
目を丸くした。自分の名前を、呼ばれた気がしたからだ。聞けば、その幼馴染も“聖夜”という名前だったらしい。
「それで俺を見た時、灰路さんやお前たちは驚いたってワケか」
「ごめんね。知らず知らずの内に、不愉快な想いをさせちゃってたみたいで」
「あー……まぁ、気にすんな。理由が理由だったんだしよ」
正直、睨まれるのはゴメンだが――という言葉は喉奥に留めておき。気まずさごと呑み込むように腰を上げて、
「いつか、会えると良いな。ソイツに」
「――! キミも、信じてくれるの?」
「まぁ、一応。名前まで同じじゃあ、ちょっと生存信じたくなるだろ。遺体が見つかってないなら、尚更な」
「……ッ、ありがとう」
「おう」
そう言って、聖夜は休憩所スペースを後にした。
部屋に辿り着く直前。ふと足を止めて、そっと心臓の辺りを抑える。
先程から頭の中を過る、緑川の微笑みのせいだった。
思い出す度に、胸の奥が、ずくりと疼く。身に覚えがないはずのそれは、ほのかに甘く、どこか懐かしくて。少しだけ、痛かった。
「……アイツ、ホントに嬉しそうだったな」
その夜は結局解らないままで終わってしまったが……それを“思い出す”刻は、すぐそこまで迫っていることを――まだ誰も知らない。
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