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03 ライバル
「相変わらず難儀なもんやなぁ」
水飲み場で顔を洗っている最中、癪に障る関西弁が鼓膜を揺らした。
「……何の用かしら、ゼロ」
「いんや。ただ、嫉妬の炎メラメラ燃やしとるマリアちゃんが心配でな。この暑さとのダブルパンチで倒れられたら大変やなぁ思うて」
「大きなお世話ですわ」
フンと鼻を鳴らしてその場を去ろうとする白峰に灰路は、
「もう――諦めたらえぇんとちゃう? 夏樹のこと」
緑川の名前を出され、自然と足が止まってしまう。灰路はそのまま続けて、
「本当は解っとるんやろ。夏樹は“聖夜”しか見てぇへんの」
“聖夜”――今一番聞きたくない名前に、ハラワタが煮えくり返り、掌の肉に爪が食い込んで痛む。
「それこそ、余計なお世話ですわ」
足早で、その場を去る。
グラウンドに戻れば、美空中学校 サッカー部と地原中学校 サッカー部の部員たちが混じって、各々練習を再開していた。
其処には、あの“聖夜”もいて。無意識なのか否か、彼女を見つめている緑川の姿もあった。
「っ、…………どうして」
――私たちの前に、“また”現れてしまったの。
死んで欲しいとまでは思っていなかった。しかし生きているとしても、二度と自分たちの前に現れないで欲しかった“大嫌いな幼馴染”に、届かない呟きを零す。
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