神様の花

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 昔々のどこか遠い世界のお話。  その世界は長い間人々が助け合い平和に暮らす世界でした。しかし、異常気象による作物の不作、伝染病の流行により大きく変わってしまいました。戦争による国同士の略奪、強盗や殺人の横行。その世界に住む人々は苦しい生活から心身ともに荒れ果てていきました。  その様子を憐れんだ神様は天から人々に言いました。 「お前たちに慈悲をやろう。この種を見事に花開かせることができたとき、お前たちは苦しい生活から救われるだろう。」  そう言って、ひとつの七色に輝く種をその世界に放り投げました。  人々はその種を手に入れるために争いました。世界中で多くの血が流れました。  ある日、ひとりの代表者が言いました。 「このままでは一向に花は開かない。まずは争いを止めて種を植えよう。そして毎朝順番に国の代表者が水やりをする。花が開いたときの恩恵が等しく与えられるならそれでよし。一部の者に与えられるものなら、花が開いた日の朝に水やりをした国が恩恵を最初に受ける。これでどうだろう。」  戦争に疲れ切っていた国々は渋々ですがその提案を受け入れました。    神様が授けた種から芽が出たとき、世界中の人々が歓喜しました。小さな芽が少しずつ成長するにつれて、世界中の人々に笑顔が戻り始めました。互いに助け合い、協力することを思い出し始めました。世界は少しずつではありましたが、昔のような平和な世界へと戻り始めていました。  花開いた。  その知らせが届いたとき、代表者たちは我先にと押し合いながら花の咲く場所へ集まりました。どこの国も飢えと伝染病でギリギリでした。世界中の人々が一刻も早く神からの恩恵を受けたいと願っていました。  しかしいくら待っても恩恵のようなものはありません。一人の代表者が花の植木鉢を床に叩きつけて言いました。 「どういうことだ。なにも起きないではないか。」 「もしかしたら…神様は助け合いが大切だと伝えたかったのかもしれない。実際この1か月間、私たちは助け合ってこの種を育ててきた。民衆もそれに倣って助け合うようになった。笑顔も戻った。このまま助け合えば、病も飢饉も乗り越えられるかもしれない。」  停戦を提案した指導者は言いました。その言葉に別な代表者が怒鳴るように言いました。 「馬鹿か。最早そんな余裕はない。希望があったから助け合えたのだ。」  そこからは様々な国の代表者が自分の考えを主張し始めました。 「作物は各国が分け合えば、贅沢は出来ないが十分に飢えをしのげる。病も各国の研究者を出し合えばあるいは・・・。」 「そんなのは理想論だ。現実を見ろ。」  代表者たちはあれこれと言い合う中、ひとりの代表者が静かにはっきりと言いました。 「助け合いなんて綺麗ごとを言っている余裕は我が国にはない。私は国民を守るためあなた方の国を奪わせてもらう。」  その一言をきっかけに、世界中の国を巻き込んだ大戦争が起きました。病にかかりながら、わずかな作物を奪い合った結果、とうとうその世界から人間はいなくなってしまいました。 「香りを嗅げば伝染病が治り、花をかじれば3日分の栄養を得られたのに…。」  神様は人間に与えた花を片手に溜め息をつきました。
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