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 彼女に言った通り、彼女から連絡があるまで会わないし、連絡も取らないことにする。  彼女に対する怒りは、自分自身に対しても同じ強さで感じる怒りだ。それを彼女に伝えたい。彼女が俺に会って、心を開いてくれたなら。  まとわりつくように、ゆっくりと時間が過ぎる。彼女がいないと日常はこんなに変わるものなのか。木、金、土、日と過ぎ、店休日の月曜日。  両親とは、彼女の話をしていない。出掛けない俺に何か言いたそうだけれど、そっとしておいてくれているのかもしれない。  昼過ぎには店に向かおうと家を出た。けれど、気が変わってeternalのある駅のひとつ手前で降りた。    他の路線に乗降できる比較的大きな駅で、駅ビルが幾つかある。そこを見て回ることにした。花屋や雑貨店を覗いて、店のインテリアの参考にしたい。   いつもは立ち寄ることのない、若者向けのファッションビルのディスプレイに目をひかれた。  ライトの使い方とグリーンが印象的だった。他のショップが紅葉のモチーフを多用しているのに、おそらくヒメリンゴの木だと思う。秋の華やかな洋服をまとったトルソーと箱に入れた様々な小物を手にした小さな人形。白雪姫のイメージだろうか?それらが、誰もが知っているメーカーの札が付いている家具の周囲に配置されていた。おそらく、このシーズンのキャッチフレーズと思われる「この世で一番美しいのは私」とかわいらしい自体で書かれたポスターが、店内に張っているのが見えた。なるほど。  こんな仕事をしているのだろうかと、結局彼女のことを思いだしている。    朝が遅かったから3時頃ランチを取り、書店にしばらくこもってから店に向かったのは6時過ぎ。店に入って、彼女を待つリミットは9時と決めた。いつもは、事務所にしか灯りを付けないのに、店内の奥の照明だけ付けた。  彼女がこの道を通るんじゃないか。  店に来てくれるんじゃないか。
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