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私は緊張で冷えた指先を湯呑みで温めてから、思いきって言った。
「店長さん。気付いていますよね?私のこと」
「どう言ったらいいのかな」
「いいんです。言ってくださって」
「人の区別がつかない……のかな?」
「個人が認識できないんです。久しぶりに会って、髪型や体型が変わっていると家族や親友すら分からなくなることもあるんです」
「そうですか」
「今日、お話ししたかったこととも関係がある気がして。だから、最初にお伝えしました。」
「そうなんですね。気の利いたことも、言えないし、言われても困るだろうから、どうぞ。本題に入って」
予想外の反応で、拍子抜けした。もっと言うなら、今までにない新しい反応が面白かった。ふふっと笑ってしまった。
「随分、あっさりですね。拍子抜けしちゃいました」
「だって…。それなら、美花さんはどうして欲しかった?」
どう考えても、今までで一番嬉しい反応だった。
そのまま受け入れて貰えた。
悲しませることも無かった。
困らせることも無かった。
それが、私は嬉しかった。
「いえ、嬉しかったです。私もよく分からないですけど。皆さんかわいそうとか大変だね、とか。私はずっとこの見え方なのでそう言われても…って感じ。ただ、困らせていることに困るんです」
「それはたぶん、美花さんが優しいから」
「そんなことないですよ。昔は暴れたり喧嘩したり」
「えっ、本当に?」
中学生時代を思い出した。最初はクラスメートと喧嘩になった。そのうち、誰にも相手にされなくなった。鬱憤を払うみたいに、家で暴れたり、文句を言ったり。そのうち、私も家族も疲れて引きこもった。
何とか折り合いを付けられるようになったけど、再び社会生活を送れるようになるまで、数年かかった。
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